相続不動産に借家人がいても立ち退きは要求できる?交渉の流れも解説

相続不動産に借家人がいても立ち退きは要求できる?交渉の流れも解説
執筆者: 中西孝志

はじめに

相続した不動産に借家人が住んでいて、「このまま売却できるか」「立ち退いてもらえるのか」と悩んでいませんか。

相続が発生すると、名義変更や税金だけでなく、すでに入居している借家人への対応といった問題に直面する場合があります。実は、相続不動産に借家人がいるからといって、必ずしも売却できない訳ではありません。一方で、「相続したから」「売りたいから」という理由だけで、自由に立ち退きを求められる訳でもないのが現実です。

本記事では、相続不動産に借家人がいる場合でも売却できる仕組みを整理したうえで、立ち退きを求められるケースと難しいケースの違いを解説します。立ち退き交渉の流れや立ち退き料の相場についても紹介しているので、相続不動産に借家人がいてお困りの方はぜひ最後までご覧ください。

第1章 借家人が住んでいる状態でも相続不動産は売却できる

相続した不動産に借家人が住んでいる場合でも、原則として売却は可能です。借家人がいるからといって、売却自体が制限される訳ではありません。

借家人が入居したまま売却する方法は、オーナーチェンジ物件として売却する形です。これは、所有者だけが変わり、賃貸借契約はそのまま新しい所有者に引き継がれる売却方法で、借家人の同意がなくても売却できます。売却後はオーナーが変わることを借家人に通知し、家賃の支払先が新オーナーに変わるのが一般的です。

ただし、借家人がいる状態で売却する場合、買主が限定されやすい点には注意が必要です。居住用の不動産を探している買主は、借家人がいる物件を選ばないため、主な買主は不動産投資家になります。その結果、空室で売却する場合と比べて、売却価格が下がったり、売却までに時間がかかったりする可能性が高いでしょう。

第2章 相続不動産でも正当な事由がないと立ち退き要求をできない

相続した不動産であっても、借家人に自由に立ち退きを求めることはできません。なぜなら、借家人の居住権は借地借家法によって保護されているためです。相続によって所有者が変わったとしても、賃貸借契約は原則としてそのまま引き継がれ、借家人の立場が弱くなることはありません。

そのため、「相続したから」「所有者になったから」「売却したいから」といった理由だけでは、立ち退きを求める正当な理由にはならない点を理解しておく必要があります。相続不動産であっても、立ち退きを求めるためには以下のような正当な事由が求められます。

  • 建物が老朽化しており、倒壊や安全面に問題がある場合
  • 建て替えや大規模な改修が必要で、借家人が居住したままでは対応できない場合
  • 貸主(相続人)やその家族が、やむを得ない事情により当該不動産に居住する必要がある場合
  • 借家人に長期間の家賃滞納や重大な契約違反がある場合

第3章 相続不動産の立ち退き交渉を行う流れ

相続不動産の立ち退き交渉を行う流れは以下の通りです。

  1. 賃貸借契約を更新しないことを書面で伝える
  2. 口頭で立ち退き交渉する
  3. 交渉時に立ち退き料を確定する
  4. 合意書を作成する
  5. 借家人に立ち退いてもらう

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

STEP① 賃貸借契約を更新しないことを書面で伝える

まず行うのは、賃貸借契約の内容を確認したうえで、更新しない意思を明確に伝えることです。普通借家契約の場合、契約期間満了による終了を目指すには、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、更新しない旨を通知する必要があります。

通知は口頭だけで済ませず、後のトラブルを防ぐためにも、内容証明郵便などの書面で行うのが望ましいでしょう。

STEP② 口頭で立ち退き交渉する

書面で賃貸借契約を更新しないことを伝えた後は、借家人と直接話し合いの場を設けます。「なぜ退去をお願いしたいのか」という理由を丁寧に説明することはもちろんですが、一方的に立ち退きを求めるのではなく、相手の意見や事情を丁寧に聞く姿勢を持つことも大切です。

借家人が退去に難色を示す場合、その背景には「引越し費用の負担が重い」「同じ条件の物件が見つからない」「高齢で環境を変えるのが不安」といった不安が隠れていることが少なくありません。まずは、何が問題になっているのかを正確に把握すれば、交渉を進めやすくなるでしょう。

STEP③ 交渉時に立ち退き料を確定する

立ち退き交渉では、退去に応じてもらうために立ち退き料の提示が必要になるケースが多くあります。この段階では、金額だけでなく、立ち退きに関する条件をあわせて整理することが重要です。

立ち退き料の金額は法律で決まっているものではなく、借家人の引越しに伴う負担などを踏まえて家賃の半年〜1年分程度で調整されます。交渉次第で上がったり下がったりするため、相場を意識しつつも、個別検討する必要があるでしょう。

また、退去期限や立ち退き料の支払い時期、敷金や退去までの家賃の扱いなども整理しておく必要があります。これらを曖昧にしたまま交渉を進めると、途中でトラブルに発展するかもしれません。スムーズに合意するためにも、条件面の整理は丁寧に行いましょう。

STEP④ 合意書を作成する

立ち退きの条件について双方が合意したら、書面で合意内容を残してください。口頭だけで話を終えてしまうと、「言った・言わない」といったトラブルが起こりやすく、後々問題になるリスクがあります。立ち退きの合意書には、以下のような内容を明記しておきましょう。

  • 賃貸借契約解約の合意
  • 借家人が退去する日
  • 立ち退き料の金額
  • 立ち退き料の支払時期・支払方法
  • 残存物の取り扱い
  • 敷金や原状回復の扱い

これらを明確にしておくことで、借家人にとっても安心材料となり、円満な立ち退きにつながります。なお、書面作成に不安がある場合は、不動産会社や司法書士などの専門家に確認してもらうと安心です。内容に不備があると、合意してもトラブルを防げないことがあるため、書面化は形式だけで済ませないことが大切です。

STEP⑤ 借家人に立ち退いてもらう

合意書で定めた期日までに、借家人に退去してもらい、鍵の返却や室内の確認を行います。問題がなければ、取り決めどおりに立ち退き料を支払い、立ち退きは完了となります。

第4章 借家人に支払う立ち退き料の相場

立ち退き料は法律で一律に決まっているものではなく、状況によって金額が異なります。居住用不動産の場合、家賃の半年〜1年程度が一つの基準として用いられることが多くあります。

ただし、立ち退き料は単に「家賃の何ヶ月分」と機械的に算定されるものではありません。実務では、立ち退きによって借家人が被る具体的な不利益をどこまで補償するかという考え方をもとに、金額が検討されます。立ち退き料の算定にあたって考慮される主な要素は以下の通りです。

  • 引越しにかかる費用
  • 新居の契約に必要な初期費用(敷金・礼金・仲介手数料など)
  • 移転先の家賃が高くなる場合の家賃差額
  • 引越しや生活環境の変化による精神的・生活上の負担(迷惑料)

例えば、立ち退きにより新居へ移る場合、引越し業者への依頼費用や新居契約時の初期費用といった支出が発生します。これらは、立ち退きがなければ生じなかった費用であるため、立ち退き料に含めて考えられるのが一般的です。

また、現在より家賃の高い物件に移らざるを得ない場合には、その家賃差額を一定期間分補償しなければならないケースもあります。さらに、引越しに伴う労力や生活環境の変化といった、金額に換算しにくい不利益に対する配慮として、迷惑料が立ち退き料に含まれるケースもあります。特に、借家人が長期間居住している場合や高齢の場合には、立ち退きによる影響が大きくなるため、立ち退き料が高くなりやすいでしょう。

第5章 借家人に支払う立ち退き料は経費にできる

相続不動産の売却を目的として借家人に立ち退きを求め、その対価として立ち退き料を支払った場合、その立ち退き料は譲渡所得税を計算する際の売却費用に含められます。

譲渡所得税は、不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。譲渡所得は、以下の計算式で算出されます。

譲渡所得=売却代金−(取得費+売却費用)

売却費用には、不動産会社への仲介手数料などと同様に、売却を実現するために必要だった支出が含まれます。借家人がいる状態では売却が難しく、立ち退いてもらうことで初めて売却できた場合には、立ち退き料も売却費用として扱われるのが一般的です。

ただし、立ち退き料であれば何でも売却費用になる訳ではありません。売却とは無関係に支払ったものや、私的な事情による支出と判断される場合には、売却費用として認められないケースもあります。そのため、立ち退きが売却のために必要だったことを説明できるよう、立ち退き合意書や支払い記録、振込明細などは保管しておくことが重要です。

第6章 相続不動産の売却時は不動産会社に相談しよう

相続不動産に借家人がいる場合、立ち退きが可能かどうかの判断だけでなく、立ち退き料の妥当性や売却方法の選択など、検討すべき点が多くなります。これらを相続人だけで判断しようとすると、交渉が長引いたり、結果的に不利な条件を受け入れてしまったりする恐れがあります。

不動産会社に相談することで、「借家人がいる状態のまま売却する場合」と「立ち退き後に売却する場合」の選択肢を比較できるようになります。想定される売却価格や売却期間を把握できれば、立ち退き料を支払うべきか、費用対効果の観点から判断しやすくなるでしょう。

また、立ち退き交渉を進める場合でも、不動産会社が関与することで、当事者同士の感情的な対立を避けやすくなる点は大きなメリットです。近隣の賃貸相場や代替物件の情報を踏まえた説明ができるため、借家人側も現実的な選択肢を検討しやすくなり、話し合いが前に進みやすくなるでしょう。

さらに、相続不動産では、売却前に相続登記や権利関係の整理が必要になることがあります。不動産会社が司法書士と連携している場合であれば、相続登記から売却までを一貫して進められるため、手続きの手間や時間を抑えやすくなります。

住まいの賢者では、司法書士法人と連携する不動産会社として、相続不動産の売却や借家人がいる物件のご相談に対応しています。「立ち退きを進めるべきか、借家人がいるまま売却すべきか迷っている」といった段階でも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。

まとめ

相続不動産に借家人がいる場合でも、状況に応じて売却は可能です。ただし、借家人の居住権は法律で強く保護されており、「相続したから」「売却したいから」という理由だけで立ち退きを求めることはできません。

立ち退きを検討する際は、正当な事由があるかを整理したうえで、借家人の事情にも配慮しながら交渉を進めることが重要です。立ち退き料についても、相場だけで判断するのではなく、移転に伴う具体的な負担を踏まえて、現実的な条件を探る必要があります。

また、売却を目的として支払った立ち退き料は、譲渡所得税の計算上、売却費用として扱える可能性がある点も押さえておきたいポイントです。税務上の扱いまで含めて検討することで、不要な負担を避けやすくなるでしょう。

相続不動産の立ち退きや売却は、法律・実務・税務が複雑に絡むため、相続人だけで判断するのは容易ではありません。早い段階で不動産会社に相談し、状況に合った売却方法や進め方についてアドバイスを受けることが、トラブルを避けながら手続きを終えるためには必要になるでしょう。

住まいの賢者では、司法書士法人と連携する不動産会社として、相続登記から売却までを一体的にサポートしています。相続不動産と借家人対応をまとめて相談したい方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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相続不動産の立ち退きに関してよくある質問

ここでは、相続不動産の立ち退きに関してよくある質問に回答します。

借家人に立ち退きを拒否された場合の対処法はありますか?

借家人に立ち退きを拒否された場合でも、すぐに強制的に退去させることはできません。正当な事由が不十分な状態で無理に進めると、トラブルが長期化する恐れがあります。

このような場合は、立ち退き料の条件を見直して再度話し合うか、借家人が住んだまま売却する(オーナーチェンジ)という選択肢を検討することも一つの方法です。立ち退きが難しいと判断されるケースでは、不動産会社に相談し、売却方法そのものを見直した方が早期解決に繋がる場合もあります。

立ち退き料は分割払いできますか?

立ち退き料について、必ず一括で支払わなければならないという決まりはありません。借家人との合意があれば、分割払いや一部前払いといった形で対応することも可能です。ただし、支払方法や支払時期を曖昧にするとトラブルになりやすいため、分割払いとする場合でも、金額・支払期限・支払方法を合意書に明確に記載しておくことが重要です。

借家人がいるまま売却すると、売却価格は下がりますか?

一般的には、借家人がいる状態の不動産は、空室の物件と比べて買主が限られるため、売却価格が下がる傾向があります。ただし、賃料や利回り次第では、投資用物件として評価され、スムーズに売却できるケースもあります。立ち退き後に売却する場合と、借家人付きで売却する場合のどちらが有利かは、物件や地域によって異なります。不動産会社に相談し、両方のケースを比較したうえで判断することが重要です。

この記事の執筆者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

株式会社あんしんリーガル 宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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