遺言執行者は相続人の同意なしで不動産を売れる?登記・売却の流れも解説

遺言執行者は相続人の同意なしで不動産を売れる?登記・売却の流れも解説
執筆者: 中西孝志

はじめに

親の遺言で「不動産を売却して現金で分けてほしい」と書かれていた時、何から始めれば良いのか分からず戸惑う方も多いのではないでしょうか。特に自身が遺言執行者に指定されていた場合、相続登記や不動産の売却など多くの手続きや準備を行う必要があります。

本記事では、相続人が遺言執行者となった場合に必要な不動産の登記・売却の流れを分かりやすく解説します。不動産を相続する際の遺言執行者に指定されてお困りの方は、ぜひ参考にしてください。

1章 遺言執行者とは?不動産の登記・売却でできること

遺言書に「不動産を売却して現金で分ける」と書かれていた場合、誰がどこまでの手続きを行うのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか。ここでは、遺言に従って手続きを進める遺言執行者の役割や権限、実際に就任できる人について解説します。相続人として不動産の登記や売却を担う可能性がある方は、まずこの章で全体像を把握しておきましょう。

1-1 遺言執行者の基本的な役割と権限

遺言執行者とは、被相続人(亡くなった方)の意思を実現するために、遺言書の内容を具体的に実行する立場の人です。法律により強い権限が認められており、相続人の代理として手続きを進められることが特徴です。

遺言執行者の主な役割は、遺言の内容を忠実に執行することにあります。例えば「不動産を売却して長男と次男に半分ずつ分ける」といった内容が遺言に記されていれば、登記の変更、売却の契約、売却代金の分配まで、全てを1人で行うことができます。

このように、遺言執行者は相続人よりも強い権限を持ち、相続人全員の同意がなくても手続きを進められるのが大きな特徴です。特に相続人の間にトラブルがあるケースでは、遺言執行者がいることでスムーズに遺産分割を進められるでしょう。

1-2 遺言執行者になれる人

遺言執行者には、誰でもなれるわけではありません。法律上の条件として、①遺言者が亡くなった時点で18歳以上であること、②自己破産していないことを満たす必要があります。これらの条件をクリアしていれば、相続人はもちろん、第三者や法人も指定することができます。

実際には、被相続人と関係の深い相続人が遺言執行者として選ばれるケースが大半を占めます。例えば、長男や配偶者といった信頼できる家族が選ばれる場合が多いでしょう。

一方で、相続人同士の関係が複雑であったり、遺産分割の内容が難しかったりする場合には、弁護士や司法書士など、第三者の専門家を遺言執行者に指定することも珍しくありません。専門家が就任することで、公平性が保たれ、手続きもスムーズに進むというメリットがあります。

なお、遺言執行者の就任は強制ではありません。指定された本人が辞退を希望する場合は、家庭裁判所に申し立てることで、別の遺言執行者を選任してもらうことが可能です。

2章 遺言執行者による不動産売却は清算型遺贈

不動産を売却して現金を分けるという遺言の形は、清算型遺贈と呼ばれます。清算型遺贈は、特定の不動産を特定の人に遺すのではなく、売却して得た金銭を複数の相続人に分ける方法です。ここでは、清算型遺贈を行う際のメリットとデメリットを紹介します。

2-1 清算型遺贈のメリット

不動産を売却して現金で分ける清算型遺贈は、相続トラブルを避けながら手続きの負担を軽減できるのがメリットです。

2-1-1 公平な分配ができる

清算型遺贈の大きな特徴は、不動産を現金化することで、相続人に対して公平に財産を分けやすくなる点です。不動産をそのまま相続する場合、物件ごとの評価額に差があったり、活用のしやすさに違いが出たりすることで、不公平に感じる相続人がいるでしょう。

しかし、清算型遺贈では不動産を売却して得た代金を現金として分配できます。誰が得をした、損をしたといった感情が生じにくく、相続人全員が納得する形で手続きを終えやすいでしょう。

2-1-2 不動産の管理・維持から解放される

不動産を相続すると、相続後も継続して管理・維持の責任が発生します。例えば、固定資産税の支払いや建物の修繕、庭木の手入れ、防犯対策などが必要になり、管理・維持のために時間とお金を要するケースも少なくありません。

また、相続した不動産が空き家になっている場合、放置すれば老朽化が進み、周辺住民からの苦情や行政からの指導に繋がる可能性もあります。遠方に住む相続人にとっては、物理的な距離の問題も加わり、管理の負担は一層大きく感じられるでしょう。

一方で、清算型遺贈を選択すれば、不動産を引き継がずに売却できるため、このような管理や維持に関する責任から解放されます。活用予定のない不動産を無理に相続する必要がなく、相続人の手間やストレスを大きく軽減できる有効な方法と言えます。

2-1-3 相続トラブルの予防に繋がる

不動産の相続では、「誰が受け取るのか」や「どのように使うのか」といった点で相続人同士の意見が食い違い、感情的な対立に発展する場合があります。また、共有名義にすることで、売却や管理の度に全員の合意が必要となり、関係性が悪化する原因にもなります。

その点、清算型遺贈は、不動産を売却し、現金で分ける方針が遺言であらかじめ定められているため、相続人の間での衝突が起こりにくいのが特徴です。遺言執行者が手続きを進めることで、トラブルを防ぎながらスムーズに相続を終えられるでしょう。

2-2 清算型遺贈のデメリット

遺言執行者が不動産を売却する場合、他の相続人は売却手続きに直接関与できない点がデメリットとして挙げられます。売却の進め方や価格について意見を伝えることはできても、法的に売却そのものを止める権限はなく、結果に不満が残るケースがあるでしょう。

また、遺言執行者への報酬の支払いが必要になる場合がある点にも注意が必要です。遺言書に報酬の定めがある場合や家庭裁判所が報酬を決定した場合、その金額は相続財産から支払われるため、相続人の最終的な手取り額が減少する可能性があります。

3章 遺言執行者が不動産を売却する流れ

遺言執行者が不動産を売却する流れは以下の通りです。

  1. 就任通知書と遺言書の写しを相続人に送付する
  2. 相続財産目録を相続人に交付する
  3. 相続登記を行う
  4. 不動産を売却する
  5. 売却金を分配する

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

3-1 就任通知書と遺言書の写しを相続人に送付する

遺言執行者に指定された人は、まずその職務を引き受けるか判断します。承諾した場合、法律上直ちに任務を開始し、遅滞なくその旨を相続人に通知する義務が生じます。

遺言執行者は就任の通知書を作成し、遺言書の写しとともに全ての相続人に送付します。就任通知書と遺言書の写しの送付によって、相続人全員に「誰が遺言執行者となり、これから遺言の内容を実行していく」ということを公式に知らせる訳です。

就任通知は速やかに行う必要があり、形式としては内容証明郵便で送るケースもあります。万一、遺言執行者がこの通知を怠ると相続人との信頼関係に支障が出たり、解任の手続きを進められたりする恐れがあるため、早めに確実な方法で通知することが大切です。

3-2 相続財産目録を相続人に交付する

遺言執行者は、次に被相続人の遺産調査を行い相続財産目録を作成します。遺言書に記載されている財産だけでなく、被相続人が死亡時に有していた全ての資産・負債を調べ、一覧表にまとめます。作成した相続財産目録は、相続人に交付しなければなりません。

なお、相続人から請求があれば、相続人立会いのもとで目録を作成したり、公証人に目録を作成させたりする必要もあります。財産目録には、不動産の評価額や預貯金残高、負債額なども明記されるため、相続人はこれを見ることで遺産の規模や構成を把握できます。遺言執行者は目録の内容に漏れやミスがないよう注意し、必要書類(権利証や通帳、借入金の明細等)も整えておくことが重要です。

3-3 相続登記を行う

遺言執行者が不動産を売却するには、まず被相続人名義の不動産を相続人名義に変更する相続登記を行う必要があります。遺言執行者が選任されている場合、この相続登記は相続人全員の関与がなくても、遺言執行者単独で申請することが可能です。相続登記では、検認済みの遺言書の写しや被相続人の出生から死亡までの戸籍、遺言執行者の印鑑証明書などの書類を揃え、法務局へ申請を行います。

相続登記は遺言執行者が自力で行うことも可能ですが、書類の作成・準備の専門性が高いため、司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士に依頼すれば、登記申請書の作成から法務局への申請手続きまでを一括して任せられます。相続登記の登録免許税や司法書士報酬についても相続財産の中から支払えるため、遺言執行者が負担する必要はありません。

3-4 不動産を売却する

相続登記が完了すると、遺言執行者は不動産の売却手続きに進むことができます。まずは不動産会社に査定を依頼し、売却価格の目安となる相場を把握しましょう。査定結果から売却を依頼する不動産会社を選び、遺言執行者名義で媒介契約を締結します。

買主が見つかれば、遺言執行者が売主として売買契約を締結し、契約書には遺言執行者として売却する旨を明記します。決済日には、売却代金の受領と同時に所有権移転登記の申請が行われ、鍵の引き渡しや各種費用の精算を経て、不動産の売却が完了します。売却代金は、分配までの間、遺言執行者が適切に管理する必要があります。

3-5 売却金を分配する

不動産の売却が完了し、売却代金を受領したら、遺言執行者は仲介手数料や登記費用などの必要経費を差し引いたうえで、遺言の内容に従って受遺者や相続人へ分配を行います。分配は原則として振込などの方法で行い、金額や支払日が分かる形で記録を残しておくことが大切です。

なお、相続した不動産を売却する際には譲渡所得税が課税される点にも注意が必要です。たとえ不動産の売却代金が第三者に遺贈される場合であっても、譲渡所得税の納税義務は相続人に生じ、相続人全員で負担することになります。譲渡所得税は確定申告によって税額が確定するため、事前に譲渡所得税額を試算し、売却金から差し引いたうえで分配計画を立てておくのが望ましいでしょう。

4章 不動産を売却する際は不動産会社に相談しよう

遺言執行者が不動産を売却する際には、不動産会社に相談しながら進めることが重要です。なぜなら、不動産取引に慣れていない人が自己判断で売却手続きを進めれば、適正価格を判断できず、相場よりも安く売却してしまうリスクが高いためです。

適正価格よりも安く売却することで、他の相続人から「なぜその価格で売ったのか」と不信感を持たれたりするリスクもあるでしょう。そのため、複数の不動産会社に査定を依頼し、客観的な相場を把握したうえで売却価格を決めることが大切です。

不動産会社は査定だけでなく、広告活動や買主との交渉、売買契約、引き渡しまでを一貫してサポートしてくれます。遺言執行者であり相続人でもあることを伝えておけば、他の相続人への説明の仕方や、トラブルを防ぐ進め方についても助言を受けられます。

住まいの賢者では、司法書士法人が連携している不動産会社として、相続登記から不動産売却までをワンストップでサポートしています。遺言執行者として不動産を売却したい方や、相続人同士のトラブルを避けながら適正価格で売却したい方は、お気軽にご相談ください。

まとめ

遺言執行者が不動産を売却する場合、就任通知、相続財産目録の作成、相続登記、不動産の売却、売却金の分配といった一連の手続きを、法律に基づいて順を追って進めていく必要があります。特に不動産は、相続登記を完了させなければ売却できない点や、売却時に譲渡所得税が発生する点など、注意すべきポイントが多くあります。

また、遺言執行者が相続人を兼ねているケースでは、売却価格や分配方法をめぐって、他の相続人から不信感を持たれやすい立場にもなりがちです。こうしたトラブルを防ぐためにも、相続登記や税金、不動産売却に強い専門家のサポートを受けながら進めることが重要です。

住まいの賢者では、司法書士法人が参加する不動産会社として、清算型遺贈の手続きをサポートしています。遺言執行者として不動産の売却を任された方や、相続人同士のトラブルを避けながら適正価格で売却したい方は、まずはお気軽にご相談ください。

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遺言執行者による不動産売却・相続登記に関してよくある質問

ここでは、遺言執行者による不動産売却・相続登記に関してよくある質問に回答します。

遺言執行者による不動産売却・相続登記ではどのような支払いが発生しますか?

遺言執行者による不動産売却・相続登記では、主に相続税・譲渡所得税・登録免許税・印紙税・仲介手数料・遺言執行者への報酬といった支払いが発生します。それぞれ支払うタイミングが異なるため、どの税金や費用がいくら発生するのかを事前に整理しておくことが大切です。

相続人は売却先に関して意見はできませんか?

遺言執行者が選任されている場合、不動産の売却や売却先の決定は、原則として遺言執行者の権限で行うことができます。そのため、相続人が法的に売却そのものや売却先を差し止めることは基本的にできません。

ただし、売却価格が相場とかけ離れて著しく安い場合や、明らかに不合理な条件で売却しようとしている場合には、相続人が説明を求めたり、状況次第では責任を追及できたりする可能性もあります。トラブルを防ぐためにも、遺言執行者は売却の経過や価格の根拠について、相続人へ適宜説明しておくことが重要です。

この記事の執筆者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

株式会社あんしんリーガル 宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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