目次
はじめに
相続税を計算する際は、遺産の相続税評価額に基づいて課税額が決まります。相続税評価額とは、実際の売買価格(実勢価格)ではなく、国の基準に基づいて算出された評価額のことです。
土地の評価には路線価が用いられますが、建物の場合は固定資産税評価額がベースになります。評価方法が異なるため、土地と同じ感覚で建物を評価すると、申告ミスや過剰申告に繋がる恐れがあります。
この記事では、建物の相続税評価額の基本から、住宅や賃貸物件ごとの評価方法、注意すべきポイントまで解説します。相続税の正確な申告や節税のために、ぜひ参考にしてください。
第1章 建物・家屋と土地の相続税評価方法
相続税を計算するうえで、建物と土地は評価方法が異なります。誤って同じ基準で判断してしまうと、過大な課税や申告ミスに繋がるため、それぞれの評価基準を正しく理解しておくことが重要です。
1-1 建物・家屋
建物の相続税評価額は、原則として固定資産税評価額がそのまま用いられます。固定資産税評価額とは、市区町村が3年に一度見直す価格で、建物の構造や延床面積、築年数などに基づいて決定されます。相続税の計算では、この固定資産税評価額を建物の評価額とし、建物の実際の売買価格(実勢価格)では評価しない点に注意が必要です。
また、建物の相続税評価額は再建築価格の約70%、工事請負契約の50〜70%が目安です。そのため、相続税評価額としては低めになる傾向があります。
1-2 土地
土地の相続税評価額を算出する際は、路線価方式または倍率方式を使用します。建物のように固定資産税評価額をそのまま用いるのではなく、土地の立地や利用状況に応じて以下のように算出します。
- 路線価方式:市街地など、道路ごとに「1㎡あたりの価格(路線価)」が定められているエリアでは、該当する道路の路線価 × 土地面積で土地の相続税評価額を算出。さらに、土地の形状や接道状況に応じて、補正率をかける場合もあります。
- 倍率方式:路線価が設定されていない地域では、固定資産税評価額 × 倍率(国税庁が定めた地域別の倍率)で評価します。路線価方式より簡易な計算式で、地方や郊外で用いられる傾向があります。
このように、建物と土地では評価の基準が異なるため、両方の算出方法を正しく理解しておきましょう。
第2章 固定資産税評価額を確認する方法
建物の相続税評価額を把握するためには、固定資産税評価額を確認しなければなりません。ここでは、固定資産税評価額を確認する方法を見ていきましょう。
2-1 固定資産税の課税明細書
毎年4月頃、土地や建物を所有している人に対して、市区町村から固定資産税の納税通知書が送付されます。納税通知書には固定資産税の課税明細書が同封されており、この明細書に土地や建物ごとの固定資産税評価額が記載されています。
被相続人の生前に届いた固定資産税の課税明細書が手元に残っていれば、それを見るのが最も簡単な確認方法でしょう。
2-2 土地・家屋名寄帳
名寄帳とは、同一名義人が市区町村内に所有している全ての不動産(土地・建物)を一覧で確認できる帳簿です。名寄帳は不動産所在地の市区町村の役場で、1通200円〜300円程度で取得できます。
納税義務者本人であれば、本人確認書類だけで取得することが可能です。ただし、相続人が取得する場合は本人確認書類に加えて、被相続人が亡くなったことを証明する書類や、相続関係を証明する書類(戸籍謄本など)が必要となるケースが多くなっています。
2-3 固定資産税評価証明書
固定資産税評価額は、固定資産評価証明書でも確認することが可能です。固定資産税評価証明書は、市区町村の役所や都税事務所などで発行されており、窓口申請または郵送による取得が選べます。
証明書には、土地や建物の所在地・所有者・固定資産税評価額などが記載されており、相続税申告書に添付する資料としても利用されます。また、証明書の取得には、以下のような準備が必要です。
- 自治体所定の申請書
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 手数料
郵送で申請する場合は、申請書に加えて手数料分の定額小為替・切手を貼付した返信用封筒を同封して送付する必要があります。
第3章 建物・家屋の状況に応じた相続税評価額の計算方法
建物の相続税評価額は、原則として固定資産税評価額をベースに算出されますが、その評価額は建物の使用状況や形態によって補正されることがあります。ここでは、代表的なケースごとに評価方法の違いを見ていきましょう。
3-1 被相続人が利用していた一戸建て
被相続人が自宅として利用していた戸建住宅は、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。利用目的が自己居住用である場合、建物の評価の調整はありませんが、小規模宅地等の特例によって、土地の評価を最大で80%引き下げることが可能です。
3-2 被相続人が利用していたマンション(区分所有建物)
被相続人が自宅として住んでいた分譲マンション(区分所有建物)の家屋については、相続税評価額を算出する際に区分所有補正率が適用されます。区分所有補正率を用いてマンションの相続税評価額を算出する方法は以下の通りです。
マンションの家屋の相続税評価額 = 家屋の固定資産税評価額 × 1.0 ×区分所有補正率
区分所有補正率は、令和6年1月1日以降に相続が開始した案件から導入された新しい評価手法です。目的は、実際の市場価格と固定資産税評価額との乖離を是正することにあります。
具体的には、各地域のマンションの価格水準と、評価額と市場価格の差(評価乖離率)を組み合わせて補正率を算出します。計算の詳細は専門的で複雑なため省略しますが、評価水準が高い地域や築浅のマンションなどでは、評価額が大きく引き上げられる可能性があります。
仮に、被相続人が住んでいたマンションの固定資産税評価額が3,000万円、評価乖離率が2.272、評価水準が0.6だったとします。この場合、相続税評価額は以下のように求められます。
相続税評価額 = 3,000万円 × 1.0 ×(2.272 × 0.6) = 約4,090万円
なお、この制度は被相続人が実際に居住していたマンションのみに適用されるため、空室や賃貸用物件には原則として適用されません。
3-3 第三者に貸している建物
被相続人が生前、第三者に貸し出していた建物は貸家として評価され、相続税評価額の計算において一定の減額が適用されます。例えば、一軒家を他人に貸していたケースや、マンションの一室を賃貸に出していた場合などが該当します。貸家の相続税評価額は、建物の固定資産税評価額に借家権割合を考慮して減額する以下の計算式で算出されます。
相続税評価額 = 固定資産税評価額 ×(1 − 借家権割合)
借家権割合とは、借家人が有する権利を反映して、建物の評価額を減額するための割合です。現在は全国一律で30%とされています。例えば、貸家の固定資産税評価額が1,000万円で、借家権割合が30%である場合、相続税評価額は1,000万円 ×(1 − 0.3)= 700万円です。
このように、建物を第三者に賃貸していた場合は、自己使用していた場合よりも相続税評価額が低くなります。
3-4 賃貸マンションやアパートなど一棟で所有している建物
一棟で所有している賃貸マンションやアパートについては、賃貸されている面積の割合(賃貸割合)も考慮したうえで相続税評価額を算出します。賃貸マンションやアパートなど一棟で所有している建物の相続税評価額の計算方法は以下の通りです。
相続税評価額 = 固定資産税評価額 ×(1 − 借家権割合 × 賃貸割合)
被相続人が所有していた賃貸マンションの固定資産税評価額が1億円だったとします。建物全体の床面積が500㎡で、うち250㎡分が実際に賃貸されている場合、賃貸割合は50%です。この時の相続税評価額は1億円 ×(1 − 0.3 × 0.5)= 8,500万円です。
3-5 相続が発生する前に増改築をした建物
相続発生前に増改築等を行った建物であっても、その内容がまだ固定資産税評価額に反映されていないケースがあります。これは、固定資産税の評価替えが3年に1度行われ、タイミングによっては最新の増改築内容が評価額に反映されていないからです。
こうした場合には、実際の増改築費用や工事内容を考慮し、以下の計算式で相続税評価額を算出する必要があります。
相続税評価額 = 増改築前の家屋の固定資産税評価額 +(増改築等の費用 − 借家権割合 × 死亡日までの償却費)× 70%
なお、死亡日までの償却費を求める計算式は、増改築費用 × 90% × 経過年数 × 耐用年数です。
第4章 建物・家屋の相続税評価額を算出する際に気をつけるべき点
建物・家屋の相続税評価額を算出する際に気をつけるべき点は以下の通りです。
- 基準年度以外の固定資産税評価額を使わない
- 固定資産税課税標準額を使用しない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 基準年度以外の固定資産税評価額を使わない
固定資産税評価額は3年に1度の評価替えによって見直されます。相続税評価に使えるのは、相続開始日に有効な基準年度の評価額であり、古い評価額や更新前の評価額を使うと正しい金額になりません。
評価証明書や課税明細書を取得する際には、相続発生日時点のデータであることを必ず確認してください。
4-2 固定資産税課税標準額を使用しない
課税明細書などには固定資産税評価額と似た名前で、固定資産税課税標準額が記載されています。ただし、課税標準額は各種控除や特例適用後の金額であり、固定資産税評価額とは別物なので相続税の評価には使用できません。
固定資産税評価額は、課税明細書には価格や建物の価格と書かれてることが多くなっています。固定資産税課税標準額を使用すると過少申告となってしまうため、必ず固定資産税評価額を確認するようにしましょう。
第5章 相続税の計算方法
「相続税はいくらかかるのか分からない」「難しそうで計算できない」と感じる方も多いかもしれません。ここでは、遺産が6,000万円、相続人が子供2人の場合で相続税を計算します。
STEP① 基礎控除額を計算する
相続税には基礎控除が設けられており、これを超える部分のみが課税対象となります。基礎控除の計算式は以下の通りです。
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
= 3,000万円 +(600万円 × 2人)= 4,200万円
このケースでは、遺産総額6,000万円 - 基礎控除4,200万円 = 1,800万円となり、課税対象額は1,800万円です。
STEP② 課税対象額を法定相続分で分ける
相続人が子供2人の場合、1/2が法定相続分となります。つまり、それぞれ900万円ずつが課税対象額という訳です。
STEP③ 税率を適用し、相続税額を計算する
以下の表に従って、取得金額ごとの税率と控除額を確認します。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | – |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
法定相続分で分けた金額が900万円なので、税率は10%で、控除額は0円です。900万円 × 10% = 90万円となり、子供1人につき90万円ずつ、合計で180万円の相続税を支払うことになります。
第6章 被相続人の生前にできる建物の相続税評価額を下げる方法
「相続税の納税額を少しでも抑えたい」と考える方も多いでしょう。相続税を抑えるためには、相続税評価額を下げる必要があります。ここでは、被相続人の生前にできる建物の相続税評価額を下げる方法について見ていきましょう。
6-1 空き家になっている建物は他人に貸す
被相続人が所有する建物が空き家のままであると、相続時には自用家屋として評価され、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になるケースが一般的です。しかし、建物を第三者に賃すことで、借家権割合(通常30%)を控除した額で評価できます。
例えば、固定資産税評価額が1,000万円の建物を貸し出した場合、相続税評価額は700万円まで下がる計算になります。空き家状態が続く場合は、賃貸に出すことで評価額の引き下げに繋がります。
6-2 一棟で所有しているアパートやマンションは空室を減らす
一棟所有の賃貸アパートやマンションは、貸している面積(賃貸割合)によって相続税評価額が変わります。空室が多いほど賃貸割合が下がり、評価額が高くなる仕組みなので、一棟で所有しているアパートやマンションは空室を減らせば、相続税評価額を引き下げることが可能です。
例えば、10室あるアパート(全部屋が同じ面積)で5室埋まっている場合、相続税評価額は固定資産税評価額の85%(1-0.3 × 0.5)になります。一方で10室とも埋まっている場合の相続税評価額は、固定資産税評価額の70%(1-0.3 × 1)です。
このように、空室の数によって相続税評価額が変わるため、納税額を抑えたいなら空室を減らしておくことが大切です。
まとめ:建物の相続税評価額は土地の計算方法と違う
建物・家屋の相続税評価額は、原則として固定資産税評価額を基準に算出されます。一見シンプルな仕組みに見えますが、「誰がどのように使っていたか」「何部屋が賃貸中だったか」といった利用実態によって評価額が大きく変わる点が特徴です。
特に、区分所有のマンションには令和6年から新たに導入された「区分所有補正率」が適用され、実勢価格との乖離を補正する仕組みも加わりました。また、貸家やアパートなど収益物件の場合は、借家権割合や賃貸割合も考慮する必要があります。
さらに、評価の基となる固定資産税評価額は3年に1度しか見直されないため、増改築が評価に反映されていないケースもあります。こうした事情を知らずに申告してしまうと、課題申告や過少申告に繋がります。
正確な相続税評価額を把握するためには、建物の構造や用途、利用状況を踏まえた評価が欠かせません。専門的な知識が必要になる場面も多いため、不安な場合は不動産会社に相談し、正確な評価を把握しておくことが大切です。
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