不動産オーナーが認知症になったら賃貸経営はどうなる?対処法を解説

不動産オーナーが認知症になったら賃貸経営はどうなる?対処法を解説
執筆者: 中西孝志

はじめに

不動産オーナーが高齢になるにつれて、認知症のリスクは避けて通れなくなります。

賃貸経営には意思決定や契約行為が発生するため、認知症の進行によって日常の業務に支障が出ると、物件の管理や収益の維持が困難になります。そのため、元気なうちに家族信託や任意後見制度などの対策を行っておくことが重要です。

本記事では、不動産オーナーが認知症になった場合に起こる問題と事前に備えておくべき対策を解説します。

第1章 不動産オーナーが認知症になると何が起こる?

認知症になると、不動産オーナーとして行うべきことが徐々にできなくなり、日常の管理業務が滞ることで、収益悪化やトラブルの原因となります。

では、不動産オーナーが認知症になるとどのようなトラブルが起こるのかを見ていきましょう。

1-1 不動産の修繕に対応できない

建物は時間と共に劣化します。認知症を患うと、オーナー自身が設備の不具合に気づけず、適切な修繕判断ができなくなります。

その結果、設備の故障が放置されてしまい、入居者からの苦情が相次ぐことになるでしょう。また、放置された修繕箇所が原因で事故が発生すると、損害賠償などの法的トラブルにも発展しかねません。

修繕のタイミングを逃すと、資産価値の低下にもつながり、物件全体の魅力が損なわれてしまうため注意しましょう。

1-2 家賃の徴収・滞納対応が滞る

家賃の入金確認や滞納者への対応も、認知機能の低下により困難となります。

回収不能な家賃が増えると、賃貸経営のキャッシュフローに影響を及ぼします。また、家賃の未収金を放置することにより、滞納が常態化し、他の入居者にも悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。

適切な督促ができなければ、家賃収入は不安定となり、経営破綻のリスクが高まることも考えられます。

1-3 入居者と賃貸借契約が結べなくなる

賃貸借契約は意思能力が求められます。認知症が進行し意思能力を欠いた状態になると、新たな契約は無効と判断される可能性があります。

契約書の更新や解約手続きも行えなくなるため、法的な不備が発生し、入居者とのトラブルに発展するリスクも高まるでしょう。状況によっては、悪質な入居者に付け込まれるケースもあるため、意思能力が欠けた状態での業務は現実的といえません。

1-4 入居者と意思疎通が困難になる

入居者からの問い合わせやトラブル対応に応じられなくなると、信頼関係が崩れます。

管理会社を利用していない場合、直接の対応が不可欠なため、入居者満足度の低下や退去リスクの増加を招きます。また、修繕依頼やクレーム対応など、即時性を求められる業務にも対応できず、物件の評判が悪化しかねません。

情報の伝達がうまくいかないことで、誤解や対人トラブルを招きやすくなるでしょう。

第2章 不動産オーナーが認知症になった場合は成年後見人が必要

不動産オーナーが認知症になり、症状が相当に進行してしまった場合、法律行為を代行するためには成年後見人の選任が必要です。

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分な人を保護するための制度です。認知症進行後も契約や手続きなど、一定の法的行為を可能にする仕組みとして、多くの場面で活用されています。

ただし、申立てには家族の同意や診断書の準備が必要で、本人の財産状況や家庭の事情によっては時間と手間がかかります。

そのため、元気なうちから計画的に備えておくことが重要です。

2-1 成年後見人の活用でできること

成年後見人は、本人に代わって不動産の管理や契約手続き、家賃徴収、修繕対応などを行うことができます。税務申告や相続手続きも代理人として対応でき、裁判所の監督下に置かれるため、第三者からの信頼性も高く法的立場も安定しているといえるでしょう。

また、成年後見人は家族がなることもできます。家族が後見人となる場合は本人の意向が尊重されやすく、信頼関係の中で業務を進められるメリットがあります。

ただし、後見人を誰にするかは家庭裁判所が決めるため、親族を希望しても必ず選任されるとは限りません。状況に応じて裁判所が最適と判断する人が後見人になり、近年は弁護士などの専門家が選ばれるケースが増えています。

2-2 成年後見人制度を利用するための手順

成年後見人制度を利用するための手順は、以下の3ステップです。

  1. 家庭裁判所に申立てを行う
  2. 医師の診断書を提出する
  3. 審査の結果、後見人が選任される

成年後見人制度を利用するためには、申立てから後見人選任までに数か月を要するケースも多く、緊急時の対応が難しいため注意しましょう。

また、親族間で意見が対立する場合や親族の財産管理に疑いがある場合には、選任が難航することもあります。手続きがスムーズに進むように事前に専門家へ相談し、必要書類の準備や親族の調整を行っておくことが望ましいでしょう。

第3章 成年後見人制度のメリット・デメリット

成年後見制度は、認知症などで意思判断能力が低下した方を保護するために設けられた制度です。不動産オーナーにとっては、経営の継続と資産の保護の観点で有効な仕組みですが、必ずしも万能ではありません。

では、成年後見制度のメリットとデメリットを解説します。

3-1 成年後見人制度のメリット

成年後見人制度のメリットは以下の3つです。

  • 法的に正当な代理人が確保できる
  • 不正リスクを防ぐための裁判所の監督がある
  • 家族以外の専門職を選任できる

成年後見制度を利用する大きなメリットは、法律的な根拠に基づいた代理行為が可能になる点です。本人が意思決定できなくなっても、成年後見人が代わりに不動産の管理や契約、収支の確認を行うことができます。

また、裁判所の監督を受けるため、法律的な知識を活かした正確な資産管理が可能となり、不正やトラブルを防止できる安心感があります。家族間での信頼関係を維持しつつ、第三者の立場からのチェックも効く、バランスのよい仕組みといえるでしょう。

3-2 成年後見人制度のデメリット

成年後見人制度のデメリットは以下の4つです。

  • 一度選任されると、後見人の交代が難しい
  • 資産の運用が制限される
  • 管理費用が発生する
  • 手続きが煩雑で時間がかかる
  • 希望の人物が選ばれるとは限らない

成年後見人制度の開始には家庭裁判所の判断が必要であり、一度開始されると本人の自由な意思による資産の処分や活用が大幅に制限されてしまいます。リスクのある投資や新たな収益事業への展開などは認められず、原則として現状維持が求められるでしょう。

また、成年後見人には報酬が発生し、管理費用が年間数万円から十数万円かかる場合もあります。家族が後見人になる場合でも、定期的な報告義務があるなど、負担が大きくなる可能性があるでしょう。

ここで注意したいのは、希望する人物が後見人に選ばれるとは限らないことです。家庭裁判所が最終的に選任するため、家族を望んでも弁護士などの専門職が就任するケースも多くあります。専門職が選ばれた場合は、家族が自由に財産を動かせなくなり、日常の判断でも裁判所への報告や確認が必要になるため覚えておきましょう。

この点を踏まえると、成年後見制度は負担が大きく、安易に利用をすすめられる制度とはいえません。可能であれば、制度開始前の段階で任意後見や家族信託などの選択肢を検討しておくほうが柔軟性を保ちやすいでしょう。

第4章 不動産オーナーが認知症に備えるポイント

不動産オーナーが認知症になったときのリスクを抑えるには、日頃からの準備が重要です。

特に、高齢のオーナーが複数の物件を所有しているケースでは、管理や判断が複雑になりやすく、成年後見制度が開始された場合の影響も大きくなります。単独の物件と比較して、手続きに時間と手間がかかりやすくなるため、いざというときに備えておきましょう。

では、不動産オーナーが認知症に備えるポイントを解説します。

4-1 所有物件のリスト化をする

はじめに、所有している不動産の一覧を整理しましょう。

以下の情報をリスト化することで、家族や専門家が把握しやすくなり、トラブルが発生した場合も迅速に対応できます。

  • 物件の所在地
  • 物件の構造
  • 築年数
  • 現在の入居状況
  • 家賃
  • 契約の更新時期
  • 管理形態

また、物件ごとの収支状況も併せて記録しておくと、経営判断にも役立ちます。紙ベースでもデジタルでも構いませんが、定期的に更新することが大切です。

4-2 管理状況の見直しをする

自主管理を行っている不動産オーナーは、管理業務を外部に委託することを検討しましょう。信頼できる管理会社に業務を委ねることで、家賃の徴収や修繕対応、クレーム処理などを任せることができ、万一の際にも安心です。

すでに委託している場合でも、緊急連絡先の指定や意思確認の代行可否など、連絡体制の再確認を行い、将来のリスクを想定した契約内容を設定しておくことが望ましいでしょう。

4-3 家族や管理会社と連携する

認知症による判断能力の低下に備え、家族や関係者との情報共有を徹底することも大切です。どの物件を誰がどのように管理しているのか、緊急時の対応は誰が行うのかなど、役割分担を明確にしておきましょう。

また、定期的に管理会社と連絡を取り、物件の状況報告を受ける体制を整えることで、異変の早期発見にもつながります。家族間での意見調整や引継ぎもスムーズになるため、信頼できるキーパーソンを事前に決めておきましょう。

4-4 専門家に相談する

不動産管理や相続、成年後見人制度などの法律知識は専門性が高く、独学では限界があります。信頼できる司法書士や弁護士、税理士などの専門家に早めに相談し、対策を立てておきましょう。

手続きが煩雑で時間がかかる成年後見制度の申立も、専門家のサポートがあればスムーズに進みます。まずは、無料相談やセミナーを活用して今のうちに手続きを進めましょう。

第5章 不動産オーナーが認知症になる前に行うべき対策

認知症になる前の段階で準備できる対策は多岐にわたります。いずれも「本人が元気なうちに」しか実行できないものが多いため、早めの対応が肝心です。

認知症発症後も安定した賃貸経営を続けるためにも、なるべく早い段階から準備を進めておきましょう。

では、不動産オーナーが認知症になる前に行うべき対策を解説します。

5-1 任意後見制度を活用する

任意後見制度は、本人がまだ判断能力を持っているうちに、将来的に自分の財産管理や生活支援を任せたい相手を自ら選び、契約を結ぶ仕組みです。

任意後見制度は、認知症を発症してからも効力を持ち、法定後見制度よりも柔軟な対応が可能です。後見人との契約内容をあらかじめ細かく設定できるため、自分の意思を反映しやすいメリットもあります。

契約には公正証書が必要ですが、その分、法的にも信頼性の高い制度といえるでしょう。

5-2 委任状を活用する

任意後見制度よりもさらに簡易な手段として、委任契約(委任状)があります。

例えば、銀行の手続きや家賃の振り込み、契約の更新などを家族に任せたい場合に活用できます。ただし、委任契約は身体能力が不十分でも本人の意思能力があることが前提となるため、認知症が進行し、意思表示ができない状態になると効力を失うため注意しましょう。

あくまで一時的・補助的な手段として位置づけて、同時に任意後見の手続きを進めるなど別の対策も行いましょう。

5-3 家族信託を活用する

家族信託は、本人が元気なうちに、自身の財産管理・処分を信頼できる家族に任せる制度です。不動産オーナーが認知症になる前に設定しておけば、意思能力を失ってもスムーズに賃貸経営を継続できます。

例えば、家族信託契約によって、家族は家賃の管理や修繕契約、新規入居者との契約など実質的なオーナー業務を代行可能です。また、成年後見制度と異なり、裁判所の監督が不要で柔軟な運用ができる点も魅力でしょう。

ただし、信託契約書の作成には法的な知識と正確性が求められるため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

5-4 賃貸経営を法人化させる

賃貸経営を法人化させることによって、オーナー個人の判断能力に依存しない経営が可能となり、認知症発症後も事業を継続させることができます。

契約や修繕などの業務や経営方針も役員の判断に基づいて遂行できるため、入居者とのトラブルを防ぐことができるでしょう。

また、法人化させることで、所得分散や相続税対策にもメリットがあります。ただし、法人設立にはコストや事務作業が増えるため、専門家と相談した上で進めることが重要です。

まとめ:備えは早いほど有利!認知症リスクを見据えた不動産管理をしよう

不動産オーナーが認知症になると、日常業務に支障が生じ、経営の継続が困難になります。

認知症を発症しても成年後見制度を利用することで、ある程度の対処は可能ですが、資産活用の自由度が制限され、時間や費用の負担も大きくなるでしょう。

認知症は誰にでも起こり得る症状です。元気なうちに早めに備えることで、家族に迷惑をかけず、資産を守ることができます。家族と相談しながら、信頼できる専門家のアドバイスを受けて将来のリスクを抑えましょう。

「住まいの賢者」では、司法書士と連携して、成年後見制度や相続登記の相談など一括で対応しています。不動産の活用にお悩みの方は、ぜひ無料相談をご活用ください。

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この記事の執筆者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

株式会社あんしんリーガル 宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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