相続放棄した相続不動産の管理責任はいつまで?怠った場合のリスクも解説

相続放棄した相続不動産の管理責任はいつまで?怠った場合のリスクも解説
執筆者: 中西孝志

はじめに

相続放棄をしても、空き家になる予定の相続不動産の管理責任が、必ずしもなくなるとは限りません。相続放棄をすれば不動産を相続しないことになるため、「もう自分には関係ない」と考えてしまいがちですが、一定の条件に当てはまる場合には、放棄後も管理責任を負う可能性があります。

特に、相続放棄後に不動産が空き家となるケースでは、建物の老朽化や倒壊、第三者の立ち入りなどによって、近隣に被害を与える恐れがあります。管理が不十分であったと判断されれば、損害賠償を請求されるなど、思わぬトラブルに発展することも少なくありません。

本記事では、相続放棄後も相続不動産の管理責任が残るケースと残らないケースを整理したうえで、管理責任がいつまで続くのかを解説します。管理を怠った場合に生じるリスクや、相続不動産の管理責任で困った時の対処法も紹介しているので、空き家の相続でお困りの方はぜひ最後までご覧ください。

第1章 相続不動産の管理責任とは?

相続不動産の管理責任とは、相続により取得した不動産について、周囲に危険や損害を及ぼさないよう適切に管理する責任のことです。建物の老朽化や倒壊を防ぐこと、不法侵入や放火などの犯罪を防止すること、雑草やごみの放置による近隣トラブルを防ぐことなどが、管理責任の対象となります。

この管理責任は、管理義務と呼ばれてきましたが、民法940条の改正後は保存義務と表現されるようになっています。呼称は変わっても、第三者に損害が生じるような状態を防ぐべき責任がある点は変わりません。

第2章 相続放棄をしても不動産の管理責任は残る?

相続放棄をすると、原則として最初から相続人ではなかったものとみなされます。そのため、「相続放棄をすれば、不動産の管理責任も全てなくなる」と考える方は少なくありません。しかし、相続放棄をしても、状況によっては相続不動産の管理責任が残る場合があります。

相続放棄後の管理責任の有無は、「その不動産を現に占有しているか」を基準に判断されます。ここでは、管理責任が残るケースと残らないケースを分けて解説します。

2-1 現に占有している場合は残る

相続放棄後の管理責任については、その不動産を「現に占有しているか」によって判断されます。民法における占有とは、名義や権利関係ではなく、事実上、その不動産を支配または管理している状態のことです。

不動産の占有が認められるかは、出入りの状況、鍵の管理の有無、光熱費や固定資産税の負担状況などを総合的に考慮して判断されます。不動産を居住用や物置代わりに使い、日常的または定期的に出入りしている場合には、形式上の名義にかかわらず、現に占有していると判断される可能性があります。

また、「現に占有しているか」については相続放棄をした時点を基準に判断されます。そのため、親と同居していた相続人が、親の死亡後も一定期間自宅に住んだうえで相続放棄をした場合や、親の代わりに換気や清掃、郵便物の対応などを行い、それを相続放棄の時点まで続けていた場合には、占有が認められる可能性が高いでしょう。

このように、占有の有無は形式的に判断できるものではなく、個別の事情によって結論が分かれます。相続放棄をしたからといって、管理責任がなくなるわけではない点には注意が必要です。

2-2 現に占有していると判断されない場合は残らない

相続放棄をした時点で、その財産を現に占有している場合のみ、不動産の管理責任は残ります。したがって、相続放棄をした時点で不動産との関わりがほとんどなかったのであれば、原則として管理責任を負うことはありません。

例えば、親が暮らしていた実家に長年足を運んでおらず、建物の手入れや管理にも関与していなかった場合には、相続放棄をしても「現に占有している」とは評価されにくいでしょう。鍵を保管していたり、昔の私物が置かれたままになっていたりしても、それだけで管理責任が生じるわけではありません。

また、被相続人の死亡後に、供養や手続きのために一度だけ実家に立ち入ったようなケースでも、その行為が一時的なものであり、継続的な管理や使用がなかったのであれば、占有が認められる可能性は低いでしょう。

このように、管理責任の有無は相続放棄をした時点で不動産にどの程度関与していたかをもとに判断されます。相続放棄をしたからといって必ず責任が残るわけではありませんが、関わり方によって判断が変わる点には注意が必要です。

第3章 相続放棄をした後、相続不動産の管理責任はいつまで残る?

相続放棄後に残る可能性がある管理責任は、無期限に続くものではありません。ここでは、相続放棄をした後、相続不動産の管理責任はいつまで残るのかについて解説します。

3-1 他の相続人に不動産を含めた相続財産を引き継ぐ

相続放棄をした人が一時的に相続不動産を管理していたとしても、他の相続人が相続すれば管理責任はその人に移ります。相続放棄後の保存義務は実際にその不動産を管理・支配している人に課されるため、管理の主体が他の相続人に変われば、相続放棄をした人の管理責任はなくなるのです。

ただし、注意が必要なのは、引き継ぐはずの相続人も相続放棄をした場合です。誰も相続をしなければ、相続放棄時点で不動産を占有していた人に保存義務が残る可能性が高いでしょう。

3-2 相続財産清算人の選任を申し立てる

相続放棄をした結果、他に相続人がいない、または次順位の相続人も全員相続放棄をしている場合には、不動産を引き継ぐ人がいなくなります。このようなケースでは、相続放棄時点で不動産を占有していた人に保存義務が残り続ける恐れがあります。

この問題を解消する手段が、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることです。相続財産清算人とは、相続人のいない相続財産を管理・処分し、債権者への弁済などの清算を行ったうえで、最終的に残った財産を国庫に帰属させる役割を担う人のことです。

相続財産清算人が選任されると、不動産を含む相続財産の管理や処分は清算人が行うことになり、管理の主体が明確になります。その結果、相続放棄をした人が引き続き不動産を管理する必要はなくなります。

他に相続人がいなければ相続放棄だけでは問題が解決しないため、管理責任から解放されたい場合は、相続財産清算人の選任を検討しましょう。

3-2-1 申立てに必要な書類

相続財産清算人の申立てに必要な書類は以下の通りです。

必要書類取得先
申立書(所定の書式)裁判所
被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類本籍地の市区町村役場
被相続人の両親の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類両親の本籍地の市区町村役場
被相続人の直系尊属(祖父母など)の死亡記載のある戸籍謄本類各本籍地の市区町村役場
被相続人の兄弟姉妹が死亡している場合、その出生から死亡までの戸籍謄本類各本籍地の市区町村役場
代襲者(甥・姪など)が死亡している場合、その死亡記載のある戸籍謄本類各本籍地の市区町村役場
被相続人の住民票除票または戸籍附票最後の住所地の市区町村役場
相続財産に関する資料(不動産・預貯金など)法務局・市区町村役場・金融機関

多くの書類が必要で手続きも複雑なので、相続財産清算人の選任を急ぐ場合は早めに弁護士・司法書士に相談しましょう。

3-2-2 申立てに必要な費用

相続財産清算人の選任を申し立てる際には、20万円〜100万円程度の費用負担が生じます。主な費用の内訳は以下の通りです。

費用金額内容
予納金20万円〜100万円相続財産の管理や処分、債権者への対応、相続財産清算人の報酬などに充てられる費用です。相続財産の内容や、不動産の処分に要する期間などによって金額が変わります。
収入印紙代800円裁判所へ申立てを行う際に必要です。
連絡用の郵便切手代数千円裁判所や関係者との連絡に使用されます。
官報公告料5,057円相続財産清算人の選任にあたり、官報での公告に必要な費用です。

特に負担が大きくなりやすいのが予納金です。不動産の管理期間が長引いたり、売却に時間がかかったりする場合には、予納金が高額になる傾向があります。

第4章 空き家を適切に管理しない場合のリスク

相続放棄をしたとしても、管理責任が残っている状態で空き家を放置すると様々なリスクが生じます。ここでは、空き家を適切に管理しない場合のリスクについて見ていきましょう。

4-1 損害賠償を請求される

管理責任が残っている状態で空き家を放置すると、第三者に損害を与えた場合に、損害賠償を請求される恐れがあります。例えば、老朽化した建物の外壁や屋根の一部が落下して通行人や隣家に被害を与えた場合や、敷地内の樹木や塀が倒れて近隣の建物や車両を損傷させた場合などが考えられます。

損害の大きさによっては数千万円の損害賠償請求を受ける可能性もあるため、保存義務が残っているなら相続放棄後でも適切に管理しましょう。

4-2 犯罪に巻き込まれる

空き家を適切に管理せずに放置すると、不法侵入や放火、器物損壊などの犯罪に巻き込まれるリスクが高まります。人の出入りがない空き家は、外部から管理状況が分かりにくく、犯罪の対象になりやすいためです。

また、郵便物の滞留や雑草の繁茂、建物の劣化による悪臭や害虫の発生などをきっかけに、近隣住民とのトラブルに発展するケースも少なくありません。こうした状況が続くと、近隣から苦情が寄せられたり、行政から管理を求める指導が入ったりすることもあります。

空き家の放置リスクを防ぐためには、定期的な見回りや清掃といった基本的な管理を行うことが重要です。ただし、自分で対応するのが難しい場合には、空き家管理代行サービスを利用するなど、空き家の管理方法を見直してみてください。

第5章 不動産絡みの相続で困ったら司法書士と連携する不動産会社に相談しよう

相続放棄をした不動産の管理責任は、相続放棄をした時点で現に占有しているか、他に相続人がいるのかといった事情を踏まえて判断されます。もし相続放棄後も管理責任が残るのであれば、相続財産清算人を選任すべきかどうかも検討しなければなりません。

これらの点を整理しないまま対応してしまうと、相続放棄をしたにもかかわらず、管理責任が残ってしまう可能性があります。特に、相続した不動産が空き家になる場合には、管理責任の有無を判断するだけでなく、その後の管理や売却の進め方まで含めて考える必要があるでしょう。

司法書士と連携している不動産会社であれば、相続放棄や相続登記といった法的な手続きだけでなく、不動産の管理・売却なども併せて整理することが可能です。管理責任がいつまで残るのかを確認したうえで、今後の適切な対応についても、状況に応じた選択肢を検討しやすくなるでしょう。

住まいの賢者では、相続放棄後の管理責任の整理から、不動産の管理・売却に関する相談まで一体的に対応しています。不動産絡みの相続でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

まとめ

相続放棄をしても、相続不動産の管理責任が必ずなくなるとは限りません。相続放棄をした時点でその不動産を現に占有していた場合には、管理責任が残る可能性があります。この場合、管理責任は原則として、他の相続人が不動産を引き継ぐまで、または相続財産清算人が選任されるまで続きます。

管理責任がいつまで残るかは、時間の長さではなく「管理の主体が誰に移るか」で決まる点が重要です。この判断を誤ったのが原因で、相続放棄をしたにもかかわらず、管理責任だけが長期間残ってしまうケースも少なくありません。

相続不動産の管理責任がいつまで続くのか分からず不安を感じている場合や、自身のケースで責任が残るのか判断に迷う場合には、早めに専門家へ相談することが大切です。

住まいの賢者では、司法書士法人と連携する不動産会社として、相続不動産のお悩みに幅広く対応しています。無料相談も実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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相続不動産の管理責任に関してよくある質問

ここでは、相続不動産の管理責任に関してよくある質問に回答します。

遠方にある実家でも管理責任は免れませんか?

不動産が遠方にあるという理由だけで、管理責任が自動的に免れるわけではありません。遠方に住んでいても、定期的に実家へ出入りして管理を行っていたりする場合には、現に占有していると判断され、管理責任が残ります。一方で、長年実家に立ち入っておらず、管理にも関与していなかったのであれば、管理責任を負わないと判断されるケースもあります。

相続放棄が無効になることはありませんか?

相続放棄をする前後の行動によっては、「相続する意思があった」と判断され、相続放棄が無効になる可能性があります。

例えば、相続財産を私的に使ったり、不動産や預貯金の名義を自分名義に変更したりすれば、形式上は相続放棄の手続きをしていても、相続放棄が無効と判断されるリスクが生じます。一方で、建物の倒壊を防ぐための最低限の管理や、保存義務の範囲内で行う対応であれば、直ちに相続放棄が無効になるとは限りません。

相続放棄の前後は、どこまでが許され、どこからが問題になるのか判断が難しい場面も多いため、判断に迷う場合には、事前に専門家へ相談したうえで対応することが重要です。

この記事の執筆者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

株式会社あんしんリーガル 宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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