不動産は家族信託と生前贈与どっちが正解?失敗しない承継方法を解説

不動産は家族信託と生前贈与どっちが正解?失敗しない承継方法を解説
執筆者: 日野修亮

はじめに

不動産の承継を考え始めた時、「家族信託と生前贈与、どちらを選べば良いのだろう」と迷う方は少なくありません。

家族信託と生前贈与は、どちらも不動産を次の世代へ引き継ぐ方法ですが、目的や効果、税金の扱いは大きく異なります。選び方を間違えると、「思ったように不動産を動かせない」「税負担が想定以上に重くなった」といった事態に陥る恐れがあります。

そこで本記事では、不動産の承継を検討している方に向けて、家族信託と生前贈与の違い、それぞれのメリット・デメリット、どのようなケースで向いているのかを分かりやすく解説します。後悔のない選択をするための判断材料として、ぜひ参考にしてください。

第1章 不動産承継における家族信託と生前贈与の違いとは

不動産の承継方法としてよく挙げられるのが、家族信託と生前贈与です。どちらも生前に不動産の承継を考える点では共通していますが、制度の目的や仕組み、効果は大きく異なります。まずはそれぞれの特徴を整理したうえで、違いを確認していきましょう。

1-1 家族信託とは

家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託し、管理や処分を任せる仕組みです。不動産や預貯金などを対象に、将来に備えて財産の管理方法を事前に決めておくために利用されます。

家族信託では、財産を託す人(委託者)、管理を行う人(受託者)、利益を受け取る人(受益者)を定め、契約内容に沿って財産を管理します。所有権を完全に移すのではなく、管理・処分の権限を家族に託す点が特徴です。

本人の判断能力が低下した場合でも、不動産の管理や売却などを継続できる仕組みとして利用されるケースが増えています。

1-2 生前贈与とは

生前贈与とは、本人が生きている間に、自分の財産を無償で他人に譲ることを言います。不動産の場合は、贈与契約を結び、名義変更を行うことで所有権が受贈者に移転します。

生前贈与の特徴は、財産の所有権が完全に相手へ移る点にあります。そのため、将来の相続を待たずに、不動産の引き継ぎを完了させることが可能です。

1-3 家族信託と生前贈与の違い

家族信託と生前贈与の違いは以下の通りです。

項目家族信託生前贈与
仕組み財産の管理・処分を家族に託す制度財産を子などに無償で譲り、所有権を移す
財産の管理受託者が管理・処分するが、委託者は止めることができる贈与を受けた人が自由に管理・処分できる
契約できる時期委託者に判断能力がある間のみ贈与者に判断能力がある間のみ
以前の状態に戻す方法家族信託契約を解除する再度贈与または売買を行う
所有権移転登記必要必要
贈与税かからないかかる
相続税かかるかからない
不動産取得税かからないかかる
登録免許税0.4%2%

このように、生前贈与は「所有権を移す制度」、家族信託は「管理・運用を任せる制度」と考えると理解しやすいでしょう。税金の扱いや将来の柔軟性にも違いがあるため、どちらが適しているかは家族構成や不動産の使い方によって変わります。

第2章 不動産を家族信託するメリット・デメリット

不動産の管理や承継を柔軟に行える家族信託ですが、メリットだけでなく注意点もあります。ここでは、不動産を家族信託する場合のメリットとデメリットを整理して解説します。

2-1 不動産を家族信託するメリット

ここでは、不動産を家族信託することで得られる代表的なメリットについて見ていきましょう。

2-1-1 資産凍結リスクを回避できる

家族信託の大きなメリットの一つが、将来の資産凍結リスクを回避できる点です。

通常、不動産の所有者が認知症などにより判断能力を失うと、不動産の売却や賃貸、建て替えといった行為ができなくなります。たとえ家族であっても、本人に代わって自由に手続きを進めることはできず、成年後見制度を利用しなければならなくなってしまうのです。

一方、家族信託を利用していれば、事前に定めた受託者が契約内容に基づいて不動産を管理・処分することが可能です。そのため、本人の判断能力が低下した後であっても、不動産の売却や運用を滞りなく進められます。

2-1-2 二次相続以降の承継先も指定できる

家族信託では、二次相続以降の承継先まで指定できます。

遺言書で指定できるのは「誰に相続させるか」までで、その次の承継先までは指定できません。そのため、配偶者に相続させた後、さらにその次の相続で誰が不動産を取得するかについては、改めて相続人同士で話し合う必要があります。

一方で、家族信託では、「自分が亡くなった後は配偶者へ」「配偶者が亡くなった後は子供へ」といったように、複数世代にわたる承継の流れを契約で定めておくことが可能です。これにより、相続の度に協議を行う必要がなくなり、将来的な相続トラブルの防止にも繋がります。

2-1-3 収益不動産の経営がスムーズになる

不動産オーナーの判断能力が低下すると、賃貸借契約の締結や更新、修繕工事の判断、売却といった行為ができなくなる可能性があります。その結果、物件の管理が滞ったり、適切なタイミングで売却できなくなったりするケースも少なくありません。

しかし、家族信託を利用しておけば、受託者が契約に基づいて賃貸管理や修繕、売却などを行うことが可能です。オーナー本人の判断能力に左右されずに不動産経営を継続できるのも、家族信託のメリットと言えるでしょう。

2-2 不動産を家族信託するデメリット

ここでは、不動産を家族信託する際に理解しておきたいデメリットについて解説します。

2-2-1 契約を変更するのが難しい

家族信託は、一度契約を締結すると、後から内容を変更するのが難しくなります。なぜなら、家族信託契約の内容を変更するには、委託者・受託者・受益者など、関係者全員の同意が必要となるためです。

また、受託者が途中で亡くなったり、病気になったりして役割を果たせなくなる場合への備えも必要です。後任の受託者を定めていなければ、トラブル発生時に信託の運用が一時的に止まってしまう可能性があります。このようなリスクを避けるためにも、家族信託を設計する際には、受託者の変更や予備の受託者についても契約書に記載しておきましょう。

2-2-2 損益通算できない

家族信託を利用する場合、損益通算はできません。損益通算とは、不動産経営などで生じた赤字を、給与所得や事業所得など他の所得と相殺し、全体の課税所得を減らす仕組みのことです。

家族信託では、信託された不動産から生じる収入や費用は信託財産として区分して扱われるため、たとえ赤字が出たとしても、他の所得と合算して税金を軽減することはできません。そのため、修繕費や管理費がかさんだ年であっても、節税効果を期待するのは難しいでしょう。

第3章 不動産を生前贈与するメリット・デメリット

生前贈与は、不動産を早めに配偶者や子供へと引き継げる方法です。相続対策として活用されることも多く、制度を正しく使えば一定のメリットを得られます。一方で、税負担や手続きの面では注意すべき点も多く、安易に選択すると想定外の負担が生じるリスクもあります。ここでは、生前贈与のメリットとデメリットを整理して見ていきましょう。

3-1 不動産を生前贈与するメリット

不動産を生前贈与するメリットは以下の通りです。

3-1-1 相続時精算課税制度を利用できる

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫に財産を贈与する場合に選択できる制度です。相続時精算課税制度を利用すれば、累計2,500万円までの贈与については贈与税がかかりません。

例えば、祖父から孫へ評価額2,000万円の不動産を贈与した場合でも、不動産以外の財産によっては贈与税の支払いが不要です。贈与税を支払わずに不動産を早い段階で移転できる点は、生前贈与の大きなメリットと言えるでしょう。

ただし、相続時精算課税制度は非課税になる制度ではありません。贈与した財産は、将来相続が発生した際に相続財産へ持ち戻され、相続税の計算対象となる点には注意が必要です。

3-1-2 不動産の所有権を確実に移転できる

生前贈与では、贈与契約を結んで名義変更を行うことで、不動産の所有者が受贈者に変わります。これにより、「誰がその不動産を引き継ぐのか」が明確になり、将来の相続を待たずに承継を完了させることが可能です。

相続の場合、遺言書がなければ相続人全員で遺産分割協議を行う必要があり、不動産の取得を巡ってトラブルになるケースも少なくありません。一方、生前贈与であれば、前もって承継先を決めておくことができるため、相続時の混乱を防ぎやすくなります。

3-2 不動産を生前贈与するデメリット

生前贈与には、不動産の承継先を早めに決められるというメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。ここでは、不動産を生前贈与する際に押さえておきたいデメリットについて解説します。

3-2-1 贈与税が高額になりやすい

贈与税は、1年間に受け取った財産の合計額から基礎控除である110万円を差し引いた金額に対して課税されます。評価額が高額になりやすい不動産を相続すると、110万円の基礎控除額を大きく超えてしまい、多額の贈与税が発生します。例えば、固定資産税評価額が1,000万円の不動産を孫に贈与した場合の課税対象額は以下の通りです。

1,000万円−110万円=890万円

70歳の祖父から25歳の孫への贈与には特例税率が適用されるため、税率は30%、控除額は90万円となります。つまり、このケースでは890万円×30%−90万円=177万円の贈与税が発生します。

このように、不動産を一度に贈与すると、現金で100万円単位の税金を納める必要が生じることも珍しくありません。納税資金を別途用意できなければ、せっかく贈与しても家計を圧迫してしまう可能性があります。

3-2-2 相続よりも不動産取得税や登録免許税が高くなる

不動産を生前贈与する場合、贈与税に加えて不動産取得税や登録免許税といった税金が発生します。これらは相続の場合と取り扱いが異なるため、税負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。

不動産取得税とは、不動産を取得した際に都道府県から課される税金です。売買や贈与によって不動産を取得した場合に課税されますが、相続による取得の場合は非課税とされています。

一方、生前贈与で不動産を取得した場合には、不動産取得税がかかり、原則として固定資産税評価額の3%(住宅の場合)が課税されます。例えば、固定資産税評価額が1,000万円の不動産を生前贈与した場合、不動産取得税は1,000万円×3%=30万円となります。

また、登録免許税とは、不動産の名義変更を行う際にかかる税金です。相続による所有権移転登記の場合、税率は固定資産税評価額の0.4%ですが、生前贈与の場合は2%と大きく引き上げられます。

同じく固定資産税評価額1,000万円の不動産で比較すると、相続の場合は4万円、生前贈与の場合は20万円となり、登録免許税だけでも大きな差が生じます。このように、生前贈与では贈与税に加えて、不動産取得税や登録免許税の負担が重なるため、相続と比べてトータルの税負担が高くなりやすい点がデメリットと言えます。

第4章 不動産の承継に生前贈与・家族信託が向いているケース

ここでは、不動産の承継に生前贈与・家族信託が向いているケースを整理しましょう。

4-1 生前贈与が向いているケース

生前贈与は、不動産の所有権を早めに移したい場合に適した方法です。以下のようなケースでは、生前贈与が向いています。

  • 相続時精算課税制度を活用し将来の相続税を抑えたい場合
  • 不動産の承継先がすでに決まっており、変更の予定がない場合
  • 子や孫に不動産を渡したうえで自由に活用してもらいたい場合

4-2 家族信託が向いているケース

家族信託は、不動産の所有権は移さず、管理や運用だけを任せたい場合に向いている制度です。以下のようなケースでは、家族信託が適しています。

  • 不動産の管理・売却・運用を柔軟に行いたい場合
  • 自分が亡くなった後の承継先もあらかじめ決めておきたい場合
  • 収益不動産を所有している場合
  • 相続対策よりも資産凍結の防止を重視したい場合

第5章 家族信託と生前贈与は併用もできる

家族信託と生前贈与は、それぞれ単独で不動産承継の方法として成立しますが、不動産以外の財産の状況によっては併用するにも有効です。例えば、不動産は家族信託で認知症リスクに備えつつ、現金は相続税の節税を見据えて一部を生前贈与する、というように管理と承継の目的を分けて制度を使い分けられます。

ただし、制度にはそれぞれ税制や手続きのルール、要件があり、単純に併用すれば良いというわけではありません。制度ごとのメリット・デメリットを理解したうえで選択する必要があるため、家族信託や生前贈与を検討する際は、司法書士や税理士といった専門家に相談するのがおすすめです。

まとめ

生前贈与は、不動産の所有権を早めに移転できる制度で、相続時精算課税制度を活用すれば相続税対策に繋ります。一方で、贈与税や不動産取得税、登録免許税などの税負担が重くなりやすく、一度贈与すると原則として元に戻せない点には注意が必要です。

家族信託は、不動産の所有権を移さずに管理や運用を任せられる制度です。認知症対策や資産凍結の防止、二次相続まで見据えた承継などができますが、契約内容の変更が難しい、損益通算ができないといった制約もあります。

どちらの方法が適しているのかは、不動産を引き継ぎたいタイミングや税金などによって異なります。個人で判断するのは難しいため、司法書士や税理士などの専門家に相談しながら進めることが、後悔しないためのポイントと言えるでしょう。住まいの賢者では、司法書士法人と連携する不動産会社として、不動産の相続対策サポートを行っています。無料相談も実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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この記事の執筆者

日野 修亮(ひの しゅうすけ)

日野 修亮(ひの しゅうすけ)

グリーン司法書士法人 司法書士/シニア相続コンサルタント

相続や不動産に関するご相談を通じて、お客様の不安を安心に変えることを使命とし、誰にでもわかりやすい言葉でのご説明を心がけている。法律面のみならず、ご家族の関係や想いにも配慮しながら、最適な手続きを丁寧にご提案することを大切にしている。

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