家族信託で不動産を管理する時は確定申告が必要!申告の手順と注意点

家族信託で不動産を管理する時は確定申告が必要!申告の手順と注意点
執筆者: 日野修亮

はじめに

家族信託は、財産の所有者が認知症や高齢化などにより、自分で管理することが難しくなった際に家族が管理や処分を任せられる方法です。

不動産の管理や相続対策に活用されていますが、家族信託によって税金がかからなくなるわけではありません。不動産から所得が発生している場合は、家族信託の有無に限らず原則として確定申告が必要です。

本記事では、家族信託で不動産を管理している場合の確定申告の手順と注意点を解説します。申告が必要か悩んでいる方や手順が分からない方は参考にしてください。

第1章 家族信託とは?

家族信託とは、財産の所有者が信頼できる家族に財産の管理・処分を任せる方法です。

不動産を家族信託することで、不動産の所有者が判断能力を失っても、不動産の管理や賃貸、修繕や売却などの行為を家族が行えます。

近年は相続対策や認知症対策として不動産オーナーを中心に利用が広がっていますが、名義や権利関係が通常の所有とは異なるため、注意が必要です。

1-1 家族信託の仕組み

家族信託は、財産を信託する「委託者」、財産を管理・運用する「受託者」、信託から生じる利益を受け取る「受益者」の三者の関係で成り立ちます。

不動産を家族信託すると、登記名義は受託者に移りますが、信託による利益を受けるのは受益者になります。

確定申告では、原則として利益を受ける受益者が所得税の課税対象です。なお、委託者と受益者が同じ人物の場合、確定申告は委託者が対象になるため注意しましょう。

1-2 家族信託が使えるケース

家族信託は、賃貸不動産を所有している方や将来の認知症リスクに備えたい方に向いています。例えば、アパートやマンションを複数所有している高齢の親が、子供を受託者として管理を任せるケースが典型です。

ただし、通常の不動産所得と同様に扱われるため、節税効果は期待できません。導入を検討する際は、制度の目的を確認して慎重に判断しましょう。

第2章 家族信託で不動産を管理するメリット

家族信託を活用して不動産を管理するメリットは、所有者の判断能力に左右されず、継続的かつ計画的な不動産運用ができる点です。

高齢化が進む中で、不動産オーナー本人が認知症などを発症した場合、通常であれば不動産の管理や処分が難しくなります。

家族信託を利用することで、不動産の管理を続けることが可能です。また、相続が発生した際のトラブルを防ぎやすく、成年後見制度と比べて柔軟な運用ができる点も魅力でしょう。

では、家族信託で不動産を管理するメリットを解説します。

2-1 委託者の認知症対策ができる

家族信託のメリットは、委託者の認知症対策に有効な点です。

不動産の所有者が認知症になると「意思能力がない」と判断され、不動産の売却や賃貸借契約の更新、大規模修繕の決定などができなくなります。認知症になってから家族が対応を進めることで、空室対策や老朽化対応が遅れ、資産価値が下がるケースも珍しくありません。

家族信託では、あらかじめ信託契約で定めた内容に基づき、受託者が不動産の管理・運用を行います。委託者が認知症を発症したあとでも、受託者は賃貸管理会社との契約、修繕工事の発注、必要に応じた売却などを継続できます。

したがって、不動産経営を止めることなく、安定した家賃収入を維持できるでしょう。

2-2 成年後見制度より柔軟な判断ができる

成年後見制度とは、判断能力が不十分な方に後見人などが付き、生活や財産を保護する法的な制度です。

成年後見制度では、後見人の行為が家庭裁判所の監督下に置かれるため、不動産の売却や多額の修繕費がかかる工事には裁判所の許可が必要になります。

一方、家族信託は契約によって受託者の権限を柔軟に設計できます。

例えば「賃貸経営のための修繕は受託者の判断で可能」「一定条件を満たせば売却可能」などの決まりを入れることも問題ありません。

成年後見制度より迅速な判断ができる点は、家族信託の強みといえるでしょう。

2-3 相続が発生した場合に遺産分割協議が不要になる

家族信託を利用すると、相続発生時の不動産相続をスムーズに進めやすくなります。

通常、不動産は遺産分割協議の対象となり、相続人全員の合意がなければ処分や活用ができません。しかし、家族信託では信託契約で「信託終了後は誰に相続させるのか」を決めておくことが可能です。

信託契約に従って進めることで、相続発生時に不動産の遺産分割協議を行う必要がなくなり、相続人とのトラブルを防ぎやすくなるでしょう。

第3章 家族信託で不動産を管理した場合は確定申告は必要?

家族信託を利用して不動産を管理していると、確定申告をするべきか悩んでいる方も多いでしょう。結論から言うと、家族信託の有無にかかわらず、不動産から所得が発生していれば原則として確定申告は必要です。

家族信託はあくまで財産の管理・承継するための方法であり、課税そのものを免除する制度ではありません。家族信託後に所得が発生した場合は、確定申告を行いましょう。

では、確定申告が必要になるケースと不要となる例外的なケースを解説します。

3-1 信託財産の収益がある

家族信託で管理している不動産から家賃収入や共益費、更新料や礼金などの収益が発生している場合は不動産所得に該当します。

確定申告が必要かどうかは「誰の口座に入っているか」「誰が管理しているか」で判断するのではなく「信託財産から利益が生じているか」が判断基準です。

信託財産から安定的に収入が発生している場合は、基本的に確定申告が必要になると考えておきましょう。

3-2 委託者と受益者が異なる

家族信託は、受益者が不動産から得る収入を受け取る権利を持っています。利益を得ている人物に納税義務が発生するため、受益者が確定申告を行う必要があります。

例えば、親が委託者、子が受託者、親が受益者という形で信託を設定している場合、親が不動産所得を申告しなければなりません。

登記名義が受託者であっても、受託者が不動産所得を申告するわけではないため注意しましょう。

3-3 確定申告が不要なケース

家族信託をしている場合でも、すべてのケースで確定申告が必要になるわけではありません。例えば、不動産から収益が一切発生していない場合や不動産所得が基礎控除以下に収まっている場合は申告義務が生じないこともあります。

ただし、本当に申告不要なのか自己判断することは危険です。少しでも判断に迷う場合は、税理士などの専門家に確認しましょう。

第4章 家族信託で不動産所得が発生した場合の確定申告の手順

家族信託で不動産所得が発生した場合でも、確定申告の手順は通常の不動産所得と大きく変わりません。しかし、必要書類を揃えたり控除額を計算したりと手続きが多く、確認を怠ると申告ミスにつながるため注意が必要です。

では、家族信託で不動産所得が発生した場合の確定申告の手順を見ていきましょう。

4-1 収入を確認する

まずは、不動産から1年間に発生した収入を確認しましょう。

収入は、毎月の家賃だけではなく共益費や管理費、更新料や礼金、解約違約金など不動産に関連して受け取ったすべての金銭が含まれます。

確定申告は、昨年に発生した収益を基準に判断します。信託専用口座の通帳や賃貸借契約書、管理会社からの送金明細などを照合し、漏れなく整理しておきましょう。

4-2 必要書類を揃える

次に確定申告に必要な書類を準備します。

基本となるのは不動産収支内訳書ですが、家族信託の場合は不動産収支内訳書に加えて「信託の計算書」「信託の計算書合計表」を揃えましょう。

信託の計算書とは、信託財産から得た収入や支払った経費、最終的に受益者へ帰属する利益を一覧にした書類です。年間で不動産から得られる収益が3万円以上ある場合は、税務署への提出が求められるため作成しておきましょう。

4-3 控除額を計算する

不動産所得は、収入から必要経費を差し引いた金額が課税対象となります。

家族信託であっても、固定資産税や修繕費、管理委託費など、不動産運営に直接関係する支出は必要経費として計上できます。

ただし、信託財産と個人資産の支出が混在している場合は注意が必要です。どの支出が信託財産に対応しているのか明確にしておきましょう。

4-4 税額を計算する

不動産所得が確定したら、給与所得や年金所得など他の所得と合算し、所得税額を計算します。

受益者が1人の場合は比較的簡単ですが、受益者が複数いる場合は、信託契約で定められた受益権の割合に応じて不動産所得を按分し、それぞれが確定申告を行う必要があります。

計算を誤ると過少申告や過大申告につながるため、契約内容を確認して計算しましょう。

4-5 確定申告書を提出する

税額の計算が終わったら、受益者が確定申告書を作成し、所轄の税務署へ提出します。

確定申告には期限があるため、余裕を持って行いましょう。

提出方法は、税務署窓口への持参、郵送、e-Taxのいずれでも可能ですが、自宅から24時間いつでも申告が可能なことから、近年はe-Taxを利用する方法が一般的となっております。

4-6 税金の納付・還付を受ける

確定申告の結果、納付すべき税額がある場合は申告期限までに納付しましょう。

納付方法は、口座振替やクレジットカード、インターネットバンキングなど、複数の納付方法が用意されています。

一方、源泉徴収などで税金を払い過ぎている場合は、申告後に還付を受けることができます。還付金は、申告から1〜2か月程度で指定口座に振り込まれるため確認しましょう。

第5章 家族信託で確定申告をする時の注意点

家族信託の確定申告を行う際に「信託にしたから税金は特別扱いされる」「受託者がまとめて申告してくれるはず」など誤解をするケースは珍しくありません。認識違いが発生した場合、申告漏れや過少申告につながる可能性があるため注意しましょう。

では、家族信託で確定申告をする時の注意点を解説します。

5-1 家族信託を利用しても節税効果は期待できない

家族信託は節税を目的とした制度ではなく、あくまで財産管理や承継を円滑に行うための方法です。したがって、不動産所得は信託をしていない場合と変わりません。

不動産から得られる家賃収入は、通常と同様に不動産所得として課税され、所得税や住民税の計算方法も同じです。信託を利用しているからといって、特別な控除が受けられたり税率が下がったりするわけではないため注意しましょう。

5-2 受益者は申告の手間がかかる

家族信託は、実際に利益を受け取る受益者が確定申告を行います。

通常の確定申告の場合は、手順を把握すればあまり手間にはなりません。しかし、不動産が複数ある場合や信託財産と個人財産の支出が混在している場合は、資料整理や計算に時間がかかるため注意しましょう。

申告期限直前になって慌てないように日頃から収支を整理し、必要書類を保管しておくことが重要です。時間がかかると判断した場合は、税理士に相談することをおすすめします。

5-3 確定申告には期限がある

確定申告は、原則として毎年2月16日から3月15日までの間に申告と納税を行う必要があります。家族信託を利用している場合でも、この期限が延びることはありません。

期限を過ぎて申告した場合、無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。早めに準備を進め、期限内申告を徹底しましょう。

また、病気や災害、廃業などやむを得ない理由で納付が難しい場合は、猶予制度や延納制度を利用できる可能性があるため確認すると安心です。

第6章 不動産の家族信託を行う場合は届出が必要

家族信託は、確定申告とは別に税務署へ提出しなければならない届出があります。

届出をしていないからといって、直ちに罰則が科されるケースは稀ですが、書類を提出することで「誰が所得の帰属者なのか」「誰が申告義務者なのか」が明確になります。

では、家族信託に必要な届出を見ていきましょう。

6-1 家族信託開始時に必要な届出

家族信託は、委託者と受益者が同じ場合は税務署への届出義務は免除されています。

ただし、委託者と受益者が別の人物の場合は、家族信託を開始したタイミングで「受益者別調書」と「受益者別調書合計表」を受託者の居住地を管轄する税務署へ提出する必要があります。

以下の条件を満たす場合は、信託を始めた月の翌月末までに提出しましょう。

  1. 委託者と受益者が別の人物に定められている場合
  2. 信託財産の価額が50万円を超える場合

届出を行っておくことで税務署側が受益者を把握できるため、今後の確定申告や税務調査の際に説明がスムーズになります。

6-2 家族信託の内容を変更した場合の届出

家族信託は、受益者の変更や受益割合の変更、信託財産の追加や除外など契約内容を変更することが可能です。変更があった場合は「受益者別調書」「受益者別調書合計表」を税務署へ提出しましょう。

特に受益者の変更は、所得の帰属先が変わるため確定申告に影響します。変更届を提出していないと、税務署が把握している情報と食い違いが発生するため、信託の変更があった月の翌月末までに提出が必要です。

ただし、信託財産の価額が50万円以下の場合は提出しなくても問題ありません。

6-3 家族信託終了時の届出

委託者の死亡により家族信託が終了した場合も税務署へ終了届を提出します。

受益者の死亡時は受託者が「受益者別調書」と「受益者別調書合計表」を提出します。なぜなら、受益者が死亡すると相続が発生するため、税務署に相続が発生したことを報告しなければならないからです。

家族信託の期間満了により受益者が契約前に戻る場合は、税務署への届出は必要ありません。ただし、信託財産の価額が50万円を超える場合は、受益者別調書の提出が求められます。

まとめ:不動産所得がある場合は確定申告が必要!迷ったら専門家に相談しよう

家族信託で不動産を管理している場合、不動産から所得が発生していれば原則として確定申告は必要です。特に、誰が申告するかはトラブルになりやすいケースのため、家族信託の関係性を確認しておくことで、スムーズに手続きを進めることができます。

「自分のケースは申告が必要なのか判断がつかない」「必要書類の提出をきちんとできているか不安だ」と感じた場合は、一度専門家に確認することをおすすめします。

不安を抱えたまま自己判断で進めるのではなく、早めに税理士や司法書士に相談して毎年の確定申告や相続時の負担を減らしましょう。

「住まいの賢者」では、司法書士と連携して、不動産の相続登記や活用の相談など一括で対応しています。不動産の活用にお悩みの方は、ぜひ無料相談をご活用ください。

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この記事の執筆者

日野 修亮(ひの しゅうすけ)

日野 修亮(ひの しゅうすけ)

グリーン司法書士法人 司法書士/シニア相続コンサルタント

相続や不動産に関するご相談を通じて、お客様の不安を安心に変えることを使命とし、誰にでもわかりやすい言葉でのご説明を心がけている。法律面のみならず、ご家族の関係や想いにも配慮しながら、最適な手続きを丁寧にご提案することを大切にしている。

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