目次
はじめに
遺言書へ不動産について書いておきたくても、正しい書き方が分からないという方は多いものです。
不動産は相続財産のなかでも特に分けにくい資産です。遺言書がなければ相続人同士のトラブルに発展しやすく、遺言書があっても書き方を誤れば名義変更ができない事態にもなりかねません。
この記事では、土地・建物・マンションなど不動産の種類別に、遺言書の正しい書き方と文例を詳しく解説します。
第1章 不動産を遺言書に書くべき3つの理由
なぜ、不動産こそ遺言書に記載しておくべきなのでしょうか。
はじめにその理由について確認しておきましょう。
1-1 遺言がないと相続トラブルが起きやすいから
遺言書がない場合、相続した財産は相続人全員で共有している状態となります。誰がどの財産を引き継ぐかを決めるためには、遺産分割協議を行う必要があります。
しかし、この協議がまとまらないケースは少なくありません。令和6年度の司法統計によれば、遺産分割事件の約7割が遺産額5,000万円以下のケースで発生しています。
参考:令和6年司法統計年報 3家事編 第52表/裁判所
財産が少ないからトラブルにならないという認識は、必ずしも正しくないのです。
遺言書があれば、遺言者の意思に従って財産を分配できるため、相続人の間での争いを防げます。
1-2 不動産は分けにくい資産だからこそ明確な記載が必要だから
不動産は現金や預貯金と異なり、物理的に分割することが困難な資産です。
たとえば、自宅の土地と建物を相続人3人で平等に分けるには、以下の方法を取らざるを得ません。
- 売却して現金化する
- 共有名義にする
- 誰か1人が取得して他の相続人に代償金を支払う
どの方法を選んでも利害が対立しやすく、話し合いが長期化する原因になります。
遺言書で「この不動産は〇〇に相続させる」と明確に記載しておけば、相続の際に上記のような調整の必要がありません。
1-3 遺言書があると手続きがスムーズになるから
遺言書がない場合、不動産の名義変更(相続登記)には相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です。相続人が多いほど、また遠方に住んでいるほど書類の収集に時間がかかります。
一方、遺言書があれば、遺言で指定された相続人が単独で相続登記を申請できます。他の相続人の協力を得る必要がないため、速やかに手続きを完了できるというわけです。
なお、相続登記は2024年から義務化されました。相続が発生したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければ、10万円以下の過料の対象となります。
相続登記をスムーズに済ませるためにも、遺言書は必要です。
第2章 不動産を書く遺言書の種類と選び方
遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分に合った方法を選びましょう。
2-1 自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自分の手で書き、押印して作成する遺言書です。
主なメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
- 費用がほとんどかからない
- 思い立ったときにすぐ作成できる
- 内容を秘密にできる
一方で、以下のようなデメリットもあります。
- 形式不備で無効になるリスクがある
- 紛失・改ざん・隠匿のおそれがある
- 家庭裁判所での検認手続きが必要である(法務局の保管制度を利用すれば不要)
2019年の民法改正により、財産目録についてはパソコンで作成したり、登記事項証明書のコピーを添付したりできるようになりました。ただし、財産目録の各ページには署名・押印が必要です。
また、2020年7月から法務局における自筆証書遺言書保管制度がスタートしました。この制度を利用すれば、遺言書を法務局で保管してもらえるため、紛失や改ざんのリスクがなくなり、裁判所での検認手続きも不要になります。
2-2 公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。証人2名の立ち会いのもと、遺言者が口述した内容を公証人が文書にまとめます。
自筆証書遺言とは異なり、作成・保管などの手続きを公証人に任せられるのが大きなメリットです。具体的には、以下のようなメリットがあります。
- 公証人が作成するため形式不備で無効になるリスクがほとんどない
- 原本が公証役場で保管されるため紛失・改ざんの心配がない
- 家庭裁判所での検認手続きが不要である
- 字が書けない方でも作成できる
一方で、公証人に依頼するがために生じるデメリットもあります。具体的には以下の通りです。
- 公証人への手数料がかかる(財産額に応じて数万円〜十数万円程度)
- 証人2名が必要で、完全に内容を秘密にはできない
- 公証役場への出向きや事前打ち合わせが必要
2-3 どちらを選ぶ?判断のポイント
どちらの遺言書を選ぶべきかは、以下のポイントを参考に判断してください。
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
|---|---|---|
| 作成費用 | ほぼ無料 | 数万円〜十数万円 |
| 無効リスク | あり | ほぼなし |
| 検認手続き | 必要(保管制度利用なら不要) | 不要 |
| 証人 | 不要 | 2名必要 |
| おすすめの人 | 費用を抑えたい方、内容がシンプルな方 | 確実性を重視する方、財産が複雑な方 |
不動産が複数ある場合や相続人間で対立が予想される場合は、公正証書遺言を選ぶのが安心です。
一方、自宅のみを特定の相続人に相続させるようなシンプルな内容であれば、自筆証書遺言でも十分対応できます。
2-3-1 近年ではデジタル遺言の導入も検討されている
近年、様々な公的手続きのデジタル化に伴って、相続においてもデジタル遺言の導入が検討されています。
中でも、公正証書遺言の手続きに関しては、いち早くデジタル化されることが予想されます。デジタル化といっても、パソコンやスマートフォンで気軽に遺言を作成できるというものではありません。
今後は本人確認や情報提出をデジタル化することで、手続きの効率化が進められることが予想されます。
デジタル遺言について、2025年時点での実用化の見通しについて知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
参考記事:デジタル遺言はいつから使える?今作るなら公正証書がお勧めの理由
第3章 不動産を遺言書に記載するための準備6ステップ
遺言書を書き始める前に、必要な情報を整理しておくことが重要です。以下の6つのステップで準備を進めましょう。
STEP① 所有する不動産をすべて整理する
まず、自分が所有している不動産をすべて把握します。
駐車場や山林、私道の持分などは見落としがちなので注意しましょう。毎年届く固定資産税の納税通知書に記載されている課税明細書を確認すると、所有不動産を把握できます。
複数の不動産を所有している場合は、一覧表を作成しておくと管理しやすくなります。
STEP② 登記事項証明書を取得して内容を確認する
遺言書に不動産を記載する際は、登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されているとおりに書く必要があります。
住所や固定資産税の課税明細書の記載と異なる場合があるため、必ず登記事項証明書を取得して確認してください。
登記事項証明書は、法務局の窓口のほか、オンラインでも請求できます。手数料は窓口で490円、オンライン請求で郵送受取なら520円です。
登記事項証明書の記載と異なる内容で遺言書を作成すると、法務局で不動産を特定できず、名義変更ができなくなる可能性があります。
STEP③ 固定資産評価証明書で評価額を把握する
固定資産評価証明書を取得して、不動産の評価額を確認しておきましょう。市区町村役場の税務課で請求できます。
評価額を把握しておくと、相続税の概算や遺留分(最低限保障される相続分)の計算に役立ちます。また、評価額をもとに、複数の相続人へ不動産を分割するときに公平な方法を検討できます。
STEP④ マンション・共有名義など特殊ケースについて整理する
マンションは「区分所有建物」と呼ばれ、戸建てとは登記の構造が異なります。専有部分(住戸)と敷地権(土地の持分)がセットで登記されているため、記載項目が多くなります。
また、不動産を他の人と共有している場合は、自分の持分割合を正確に把握しておく必要があります。登記事項証明書の権利部(甲区)に「持分2分の1」などと記載されています。
遺言書には「遺言者の持分○分の○」と明記します。
STEP⑤ 誰に相続させるのかを検討する
不動産は分割が難しいため、基本的には特定の相続人に単独で相続させることをおすすめします。
相続するのはその不動産に住んでいる、または住む予定がある人や、維持・管理できる人が良いでしょう。しかし、遺産が不動産しかない場合などは、他の相続人との公平性をどう確保するかについても検討しなければなりません。
不動産を特定の相続人に相続させる場合、他の相続人には預貯金や現金を多めに配分するなど、全体のバランスをよく考えておきましょう。
遺言の内容が法律で保障された最低限の取り分を下回ってしまうと、トラブルの原因になります。
STEP⑥ 必要なら専門家への相談を検討する
不動産が複数ある場合や、自分で遺言書を書く自信がない場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
専門家に依頼すれば、法的に有効な遺言書を確実に作成でき、相続後の手続きもスムーズに進められます。
第4章 不動産を書いた遺言書の文例
ここからは、不動産の種類別に具体的な遺言書の文例を紹介します。登記事項証明書を手元に用意して、記載内容を確認しながらご覧ください。
4-1 自宅土地+建物を一括で書くケース
一般的な戸建て住宅の土地と建物を一括で相続させる場合の文例です。
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第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、遺言者の妻○○○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。 記 (土地) (建物) 第2条 遺言者は、前条記載の不動産を除く遺言者の有する財産全部を、前記妻○○○○に相続させる。 |
4-2 マンションのケース
マンション(敷地権付区分建物)を相続させる場合の文例です。記載項目が多いため、登記事項証明書を見ながら慎重に記載してください。
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第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の敷地権付区分建物を、遺言者の妻○○○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。 記 (一棟の建物の表示) (専有部分の建物の表示) (敷地権の目的である土地の表示) (敷地権の表示) |
なお、一棟の建物に名称がある場合、構造や床面積の記載は省略できます。
4-3 複数不動産があるケース
複数の不動産を別々の相続人に相続させる場合の文例です。
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第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、遺言者の妻○○○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。 記 (土地)所在○○市○○町○丁目 地番○○番○ 地目 宅地 地積○○○.○○㎡ (建物)所在○○市○○町○丁目○番地○ 家屋番号○○番○ 種類 居宅 構造 木造スレート葺2階建 床面積 1階○○.○○㎡ 2階○○.○○㎡ 第2条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、遺言者の長男○○○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。 記 (土地)所在○○市○○町○丁目 地番○○番○ 地目 宅地 地積○○○.○○㎡ 第3条 遺言者は、前各条記載の財産を除く遺言者の有する財産全部を、前記妻○○○○に相続させる。 |
記載漏れを防ぐため、最後に「上記以外の財産全部」を誰に相続させるか明記しておくと安心です。
第5章 不動産の遺言書で必ず押さえるべき3つのポイント
遺言書を作成する際に、特に注意すべき3つのポイントをまとめます。
5-1 不動産を正確に特定する
不動産の記載は、登記事項証明書のとおりに正確に書くことが最も重要です。
「自宅」「実家の土地」といった曖昧な表現では、法務局の登記官が不動産を特定できず、名義変更ができなくなる可能性があります。
例えば、遺言書に「○○市の自宅」と記載するだけでは不十分です。登記事項証明書に記載されている通り、所在・地番・家屋番号を正確に記入しましょう。
また、よくあるのが住所をそのまま記載するケースです。遺言書では住所ではなく地番の記載が必要になります。
自筆証書遺言の場合、財産目録として登記事項証明書のコピーを添付する方法もあります。この場合、各ページに署名・押印することを忘れないでください。
5-2 相続人を明確に記載する
不動産を相続させる相手(受遺者)についても、正確に特定できるように記載します。
相続人について記載すべき項目は以下のとおりです。
- 氏名(戸籍上の正確な表記)
- 生年月日
- 遺言者との続柄
法定相続人に財産を渡す場合は「相続させる」、法定相続人以外に渡す場合は「遺贈する」という表現を使います。
5-3 ミスを避けるなら専門家に相談しよう
遺言書は一度作成すれば終わりではなく、状況の変化に応じて見直すことが大切です。
不動産の記載に不安がある、または税金対策も含めて検討したい場合は専門家への相談をおすすめします。
まとめ:残される人たちのためにも不動産の扱いは遺言書に明記しよう
不動産は分割が難しく、相続トラブルの原因になりやすい資産です。遺言書にきちんと記載しておくことで、残された家族の負担を大幅に軽減できます。
遺言書は何度でも書き直すことができます。まだ早いと思わず、元気なうちに一度作成しておくことをおすすめします。家族の幸せを願う気持ちを、遺言書という形で残しておきましょう。
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