目次
はじめに
相続手続きを進めようとしたとき、遺言書に書かれている不動産がどれを指しているのかわからない……このような問題が起こるのは珍しくありません。
遺言書で不動産が特定できないと、相続登記が進まなくなったり、相続人の間でトラブルになったりする可能性があります。最悪の場合、遺言書の該当部分が無効になってしまうケースもあるため、早めに対処する必要があります。
本記事では、遺言書で不動産が特定できないよくあるケースと、その解決方法について詳しく解説します。相続手続きをスムーズに進めるためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
第1章 遺言書の不動産が特定できない!よくある3つのケース
自筆証書遺言の場合、専門的な知識がないために不動産の記載方法が間違っているケースが多くみられます。
ここでは、遺言書の不動産の記載でよくある間違いのパターンをご紹介します。
1-1 地番が書かれていない・記載があいまい
最も多いのが、不動産を特定するための情報が不足しているケースです。
不動産は、土地であれば「所在」と「地番」、建物であれば「所在」と「家屋番号」によって特定されます。これらの記載が欠けていると、法務局の登記官が見てもどの不動産を指しているのか判断できず、名義変更の手続きができません。
たとえば、以下のような記載方法では問題があります。
- 自宅の土地と建物を長男に相続させる
- 先祖代々の土地は次男に相続させる
- 住んでいる家を妻に相続させる
上記のような書き方では、遺言者本人や家族は理解できても、第三者である法務局には具体的にどの不動産なのかが判断できません。
不動産登記簿に記載されているとおりに、以下の情報を明記する必要があります。
【土地の場合】
所在:○○市○○区○○町○丁目
地番:○○番○
地目:宅地
地積:○○○.○○㎡
【建物の場合】
所在:○○市○○区○○町○丁目○番地○
家屋番号:○番○
種類:居宅
構造:木造スレート葺2階建
床面積:1階 ○○.○○㎡、2階 ○○.○○㎡
1-2 過去の地名や古い表現が使われている
遺言書がかなり前に作成されていた場合、当時の地名や表現が使われていることがあります。
市町村合併によって自治体名が変わっていたり、住居表示の実施によって住所の表し方が変更されていたりすると、現在の登記簿との照合が難しくなります。
過去の地名や古い表現でよくあるのは次のような記載です。
- 旧市町村名での記載(合併前の「○○村」、現在は使われていない区の名称など)
- 住居表示(住所)と地番の混同
- 通称や俗称での記載(「裏の畑」「駅前の土地」など)
住居表示(郵便物が届く住所)と登記上の地番は異なることが多いため、住所しか書かれていない遺言書では不動産を特定できない場合があります。
1-3 複数の不動産に該当しており判断できない
遺言者が複数の不動産を所有していた場合、記載内容だけではどれを指しているのか判断できないことがあります。
たとえば、遺言書に「○○市内の土地をすべて長男に相続させる」という記載があったとしても、○○市内に複数の土地がある場合は具体的にどれを指すのかがわかりません。
また、共有持分のある不動産について、持分割合が記載されていないケースも問題になりやすいため注意が必要です。
第2章 遺言書で不動産が特定できないと起きる問題
不動産が特定できないまま遺言書に従って相続を進めようとすると、以下のようなさまざまな問題が発生します。
2-1 相続登記が進められない
不動産の相続登記(名義変更)は、法務局に申請して行います。しかし、遺言書の記載から対象不動産が特定できなければ、登記官は申請を受理できません。
2024年4月から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記申請をしなければ、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科される可能性があります。
不動産が特定できない状態で放置すると、この期限に間に合わなくなるリスクが高まるでしょう。
また、相続登記ができないままでは、以下のような不都合も生じます。
- 不動産を売却できない
- 不動産を担保に融資を受けられない
- 次の相続が発生すると手続きがさらに複雑化する
申請義務に関わらず、相続登記は早めに済ませるに越したことはありません。
2-2 他の相続人との認識が食い違う
遺言書の記載があいまいだと、相続人ごとに解釈が異なり、トラブルに発展することがあります。
たとえば「自宅」という表現について、ある相続人は「建物だけ」と解釈し、別の相続人は「土地も含む」と考えるかもしれません。このような認識の相違は、遺産分割協議での対立につながりやすく、最悪の場合は裁判に発展することもあります。
2-3 遺言書が無効になる
遺言書の不動産に関する記載が不明確で、どの財産を指しているのか判断できない場合、その部分が無効とされる可能性があります。
ただし、判例では「遺言書の解釈にあたっては文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべき」とされています。
参考:最高裁判所昭和58年3月18日第二小法廷判決(最判昭和58年3月18日)/裁判所
遺言書全体の記載との関連や、作成当時の事情、遺言者が置かれていた状況などを考慮して、遺言者の意思を合理的に解釈することが求められます。
とはいえ、記載があまりにもあいまいで解釈の余地がない場合は、その部分について遺言としての効力が認められないこともあります。この場合、該当する不動産は「遺言書に記載のない財産」として扱われ、相続人全員による遺産分割協議が必要になります。
第3章 遺言書の不動産を特定するための方法
遺言書の記載だけでは不動産が特定できない場合は、以下の方法で対象の不動産を明らかにしていきます。
STEP① 法務局で登記事項証明書を取得する
不動産の正確な情報を確認するには、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得するのが基本です。
登記事項証明書には、不動産の所在・地番・地目・地積(土地の場合)、所在・家屋番号・種類・構造・床面積(建物の場合)など、不動産を特定するために必要な情報がすべて記載されています。
取得方法は、不動産の所在地を管轄する法務局の窓口で申請するか、オンラインでの請求も可能です。手数料は取得方法によって異なりますが、490~600円程度です。
参考:不動産登記、商業・法人登記における主な登記手数料/法務省
STEP② 市区町村役場で名寄帳を取得する
遺言者がどのような不動産を所有していたかわからない場合は、名寄帳(なよせちょう)の取得が有効です。
名寄帳とは、市区町村が作成する固定資産税の課税台帳を所有者別にまとめたもので、その市区町村内で故人が所有していた不動産を一覧で確認できます。
登記事項証明書ではなく名寄帳を確認すると、以下のような利点があります。
- 固定資産税が非課税の不動産(私道など)も記載されている
- 未登記の建物が見つかることもある
- 所有不動産の漏れを防げる
ただし、名寄帳を取得できる人は以下に限られます。
- 相続人
- 遺言執行者
- 相続財産清算人
- 上記の代理人(委任状が必要)
また、申請に必要なものは以下の通りです。
- 交付申請書
- 申請者の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本
- 相続人であることを証明する書類(戸籍・公正遺言証書・遺産分割協議書等の写しなど)
参考:名寄帳の交付を郵送で申請したいとき/立川市
申請するのは不動産が所在する市区町村役場(東京23区は都税事務所)で、郵送も可能です。
ただし、名寄帳はその市区町村内の不動産しか記載されていません。故人が複数の市区町村に不動産を持っていた可能性がある場合は、それぞれの市区町村で請求する必要があります。
STEP③ 遺言書の記載と実際の地番や種類(地目)を照らし合わせる
登記事項証明書や名寄帳を取得したら、遺言書の記載内容と照合して対象となる不動産を特定します。
たとえば、遺言書に「自宅」と記載されている場合、登記簿上の遺言者の住所地にある土地・建物と一致するかどうかを確認します。
また、遺言書にある古い地名は現在の地名へ変わったのかどうか、旧土地台帳などを見て調べましょう。
権利証がある場合は、そこに記載された地番・家屋番号と登記事項証明書の内容を照合することで、遺言書が指している不動産を特定できることがあります。
第4章 遺言書の不動産が特定できた後の対処方法
遺言書に書かれていた不動産が無事に特定できたら、次はその不動産をどのように相続するか、相続人全員で意思をそろえる必要があります。
ここでは、遺言書の内容に沿って進める場合と、相続人同士であらためて話し合う場合の2つの方法を紹介します。
4-1 相続人全員で押印した申述書を提出する
遺言書の不動産の特定があいまいであっても、相続人全員が遺言内容で問題ないと合意している場合、申述書(上申書)を添付して相続登記を行えるケースがあります。
たとえば、遺言書に「○○市の土地を長女に相続させる」とだけ書かれていて、地番などの詳細が記載されていない場合です。
このような場合でも、相続人全員が「どの土地を指しているのか」を認識しており、それで問題がないと合意していれば、申述書を提出することで手続きが進められます。
4-1-1 申述書の文例
|
申述書 当該不動産は、遺言書記載の「○○市の土地」に該当すると 令和○年○月○日 相続人代表 □□□(署名・実印) |
なお、全相続人分を記載し、各自の印鑑証明書を添付する必要があります。
実務では、司法書士が内容を整えたうえで作成するため、不安があれば相談しながら進めるのが安心です。
4-2 遺産分割協議書を作成する
遺言書の不動産を特定できたとしても、相続の内容について意見がまとまらない場合は、相続人全員で話し合って分け方を決めます。
その結果を文書にしたものが「遺産分割協議書」です。
協議書には、どの不動産を誰が相続するかを、登記簿に載っている情報に基づいて正確に記載する必要があります。
4-2-1 遺産分割協議書の具体的な記載例
|
遺産分割協議書 被相続人 山田太郎(令和○年○月○日死亡)の遺産について、 【相続する不動産】 所在:○○市○○町○丁目○番○ 家屋番号:1234番1 上記不動産を長女 山田花子が単独で相続する。 令和○年○月○日 相続人 山田花子(署名・実印) |
遺産分割協議書も印鑑証明書を添付する必要があります。
このように、不動産を特定する情報(地番・家屋番号・地目・種類など)を正確に明記することが重要です。
記載に誤りがあると登記が進められないこともあるため、専門家に確認してもらうと安心して手続きできます。
第5章 遺言書の不動産をどうしても特定できないときの解決策
調査を尽くしても不動産が特定できない場合の対処法を解説します。
5-1 遺産分割協議を行って不動産について相続人全員の理解を得る
遺言書の不動産を特定できなかったとしても、相続人の間で解釈が一致していれば、遺産分割協議で解決できます。
たとえば、遺言書に「自宅を長男に」とだけ書かれている場合、相続人全員が「これは○○市○○町の土地と建物のことだ」という認識が一致していれば、その合意内容を遺産分割協議書にまとめて相続登記を行うことは可能です。
ただし、この方法は相続人全員の協力が必須です。1人でも協力を得られない相続人がいると、手続きを進めることができません。
5-2 司法書士にどの不動産の可能性があるか調査してもらう
不動産の特定が難しい場合は、相続登記の専門家である司法書士に調査を依頼することをおすすめします。
司法書士は、以下のような資料を活用して不動産を特定します。
- 名寄帳
- 登記事項証明書
- 旧土地台帳
- 公図
- 住宅地図
- 権利証
また、過去の地名変更や合併の経緯、住居表示と地番の対応関係なども調査してくれるため、一般の方では特定が難しい不動産でも解決できる可能性があります。
さらに、法務局への登記申請の可否について事前相談を行い、どのような書類があれば登記が受理されるかを確認することもできます。
5-3 遺言書の解釈ができないとして「遺言書に書かれていない財産」として扱う
さまざまな調査・協議を行っても対象不動産が特定できない場合、最終的には遺言書の該当部分を無効として扱うことになります。
この場合、その不動産は遺言書に記載のない財産として、相続人全員による遺産分割協議の対象となります。
なお、遺言書の解釈について相続人の間で争いがある場合は、裁判所での解決が必要になることもあります。
遺言に基づいて不動産を取得したと主張する相続人が、他の相続人に対して所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、裁判所の判断を仰ぐことになります。
まとめ:遺言書の不動産の特定は情報収集がカギ!より確実にするには専門家のサポートを
遺言書で不動産が特定できない場合、まずは以下の手順で情報収集を行いましょう。
- 法務局で登記事項証明書を取得する
- 市区町村役場で名寄帳を取得する
- 遺言書の記載と照合して対象不動産を特定する
不動産が特定できたら、相続人全員の協力のもと、申述書の作成または遺産分割協議書の作成によって相続登記を進めます。
ただし、不動産の特定には専門的な知識が必要な場合も多く、時間と手間がかかることもあります。相続登記の期限もありますので、お困りの際は早めに司法書士などの専門家に相談されることをおすすめします。
住まいの賢者では、不動産の相続に関するお悩みに対して無料相談を承っております。ぜひお問い合わせください。
不動産の無料相談なら
あんしんリーガルへ
電話相談は9:00〜20:00(土日祝09:00〜18:00)で受付中です。
「不動産のブログをみた」とお問い合わせいただけるとスムーズです。