目次
はじめに
自分の財産を誰かに引き継ぐ方法は、相続以外にも様々なものがあります。その手段の1つが、生前贈与です。これは、自身が亡くなる前に、自分の財産を他の人に無償で渡すものです。なお、自身が所有する家を贈与することも可能です。
生前贈与を考えておられる方は、決して珍しくありません。しかし、同時に、「生前贈与はどうすればいいのか?」「自分の財産では、生前贈与した方が、節税できるかどうか分からない」など、不安を覚える方も多くおられます。
この記事では、家を生前贈与する流れ、その際に発生する税金について解説していきます。そのうえで、節税方法や、生前贈与を活用する際の注意点についてもまとめます。
第1章 家を生前贈与する流れ
STEP① 贈与契約書を作成する
家を生前贈与する際は、贈与する相手との間で贈与契約書を作成し、締結する必要があります。
贈与契約書は、財産を贈与する人と受け取る人が作成する契約書のことです。誰が、誰に財産を渡すかの合意の証明となる書類のため、土地の名義変更の際に活用できます。また、所有者変更に伴うトラブルの防止にも役立ちます。
贈与契約書は、特に決まった様式はありません。ただし、登記原因証明情報として利用する際は、以下の要素は必ず盛り込むことが一般的です。
- 贈与者の氏名・住所
- 受贈者(贈与を受ける人)の氏名・住所
- 贈与を行う日付
- 贈与する財産の概要・情報
- 贈与の方法
なお、贈与契約書は2通作成するのが一般的です。それぞれ、贈与者と受贈者が1通ずつ保管します。
STEP② 名義変更手続き(登記申請)をする
家の贈与契約書を締結した後は、不動産の名義変更手続き(登記申請)をします。この手続きは、土地の所有権を移すことから、「所有権移転登記」と呼ばれます。
所有権移転登記では、次のような書類が必要になります。
- 登記申請書
- 登記原因証明情報(贈与契約書など)
- 贈与する家・土地の登記識別情報、または権利書
- 贈与する家・土地の固定資産評価証明書
- 贈与者の印鑑証明書
- 受贈者の住所証明情報(住民票の写し、戸籍の附票など)
また、登記申請を司法書士などの専門家に依頼する場合は、上記の必要書類に、委任状が追加されます。
登記申請は、必要書類が多岐にわたるほか、申請や書類の作成にも専門知識を要します。そのため、贈与者・受贈者だけで完結させるには難しい箇所も少なくありません。
生前贈与に関する登記申請の準備、手続きが不安な方は、司法書士などの専門家に相談されることを推奨します。
STEP③ 贈与税を計算する
贈与税は、受贈者に対して課せられる税金です。
贈与税は、1年間を通して受けた贈与の総額によって、金額が決定します。なお、その税率は年間の合計贈与金額によって変動し、10%〜55%のいずれかになります。
贈与税の計算方法については、本記事の第3章で詳しく紹介します。
第2章 家を生前贈与するときにかかる税金
家を生前贈与すると、以下の4つの税金がかかります。
2-1 贈与税
生前贈与では、受贈者に対して贈与税が発生します。
贈与税は、贈与を受けた年の確定申告によって金額が決定します。そのため、贈与税の支払いタイミングは、家の生前贈与を受けた翌年です。
なお、贈与税の税率は、贈与者と受贈者の関係性により変化します。これについては、第3章で詳しく解説します。
2-2 不動産取得税
不動産取得税は、家・土地などの不動産を取得した際に支払う税金です。
家の生前贈与を受けた場合の不動産取得税の金額は、2025年7月現在、「家屋・土地の固定資産評価額×3%」と定められています。
例えば、家屋・土地の評価額が4,000万円の家の生前贈与を受けた場合、以下のように計算できます。
- 4,000万円×3%=120万円
なお、不動産取得税は、一定条件を満たす場合、軽減措置を受けることができます。
不動産取得税について詳しく知りたい方は、以下の記事も合わせてご確認ください。
2-3 登録免許税
登録免許税は、不動産を登記する際に発生する税金です。生前贈与により、土地・家屋の所有権移転登記が発生するため、この税金も必要になります。
生前贈与によって発生する登録免許税額は、2025年7月現在、「土地・建物の評価額×2%」と定められています。よって、家屋・土地の評価額が4,000万円の家の生前贈与を受けた場合、以下のように計算できます。
- 4,000万円×2%=80万円
ただし、2026年3月31日までは、次の条件を満たす場合、軽減措置が適用され、土地部分の税率が低減されます。
- 自己の居住用住宅である
- 家屋の床面積が50㎡以上である
- 新築物件である、または生前贈与を受けてから1年以内に登記されている
上記を満たす場合、土地部分の登録免許税率が、2%から1.5%に変更されます。
また、認定低炭素住宅・特定認定長期優良住宅の生前贈与を受ける場合は、家屋部分の税率に軽減措置が適用されます。
認定低炭素住宅に認定された家屋の税率は、2%から0.1%に変更されます。また、特定認定長期優良住宅に認定された家屋の税率は0.2%(マンションの場合は0.1%)です。
登録免許税は、家屋の状況によって、大きく税率が変わります。そのため、どの程度の税金がかかってくるかの把握には、事前の調査が必要です。
自分だけで完結するのが難しい場合は、司法書士等の専門家に相談されることを推奨します。
2-4 印紙税
生前贈与によって家屋等の不動産を贈与する場合、印紙税が必要です。
印紙税は、贈与契約書に収入印紙を貼る形で納付します。金額は、200円と定められています。
収入印紙は、郵便局や法務局、コンビニで購入できます。そのため、そこまで手間がかからず用意できる税金です。
第3章 家を生前贈与したときにかかる贈与税を計算する流れ
第2章でも触れた通り、家を生前贈与したときは、受贈者に対して贈与税の支払い義務が生じます。この章では、以下の家、状況をモデルに、贈与税を計算する流れについて解説します。
- 建物・土地を合わせた評価額が5,000万円
- 父親から、18歳以上の息子への生前贈与
- 受贈者は、家の生前贈与を受けた年に、他の贈与を受けていない
3-1 贈与した家の評価額を確認する
まずは、生前贈与した家の評価額を確認します。ここで確認するのは、その時点での家の価値ではなく、相続税評価額です。
土地の評価は、路線価方式や倍率方式と呼ばれる計算方法によって算出できます。
路線価方式は、道路ごとに設定されている「路線価」に、土地の面積をかけて評価額を算出します。また、倍率方式は、路線価が設定されていない地域について、国税庁が設定した地域ごとの倍率をかけて評価額を算出します。
建物の評価は、原則、固定資産評価額×1.0倍と定められています。
なお、相続税評価額については、毎年5月ごろに送付される、固定資産税の納税通知書に記載されています。また、家が所在する市区町村の窓口で、固定資産評価証明書を取得することでも確認できます。このため、自分で計算する必要はほぼありません。
3-2 課税対象額を計算する
贈与税は、一律110万円の基礎控除が適用されます。そのため、今回のケースの課税対象額は、以下の通りに計算されます。
- 5,000万円-110万円=4,890万円
今回は、4,890万円が課税対象額となります。
3-3 贈与税率を掛ける
最後に、課税対象額に贈与税率を掛けることで、贈与税額の計算が完了します。
贈与税率は、基礎控除後の課税価格によって、以下の通りに変動します。
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | 0円 |
| 200万円超400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円超600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 600万円超1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,000万円超1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 1,500万円超3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 3,000万円超4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
今回の課税対象額は、「4,500万円超」にあたるため、最終的な贈与額は以下の計算で求められます。
- 4,890万円×55%-640万円=2,049万5千円
今回のケースでは、2,000万円以上と、非常に高額な贈与税が発生することになります。
なお、上記の税率は、「直系親族からの相続」に適用される、特例税率を参照しています。それ以外の生前贈与では、一般税率という、別の計算式が適用されるため要注意です。
第4章 家の生前贈与にかかる税金を節税する方法
4-1 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)を利用する
家の生前贈与にかかる税金を節税する方法の1つに、贈与税の配偶者控除があります。これは、以下の要件を満たす場合に、贈与税の控除額が拡大する制度です。
- 婚姻期間が20年以上の夫婦であること
- 夫婦間の生前贈与であること
- 同一の夫婦間で、はじめての利用であること
- 受贈者が、贈与を受けた翌年の3月15日までに、該当する家に居住し、なおかつその後も引き続き居住する見込みであること
- 受贈者が、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書を提出すること
手続きに不備がなかった場合、贈与税の基礎控除額に、通常の110万円に加えて2,000万円が加算されます。そのため、2,110万円分までは非課税で生前贈与をすることができます。
長年連れ添った夫婦のみが使えることから、同制度のことを「おしどり贈与」と呼ぶことがあります。
ただし、おしどり贈与の対象はあくまでも贈与税のみです。登録免許税や不動産取得税は、通常通りの税率で発生しますので、注意してください。
4-2 相続時精算課税制度を選択する
家の生前贈与する形として、相続時精算課税制度を選択すれば、節税につながる可能性があります。
相続時精算課税制度とは、原則「60歳以上の父母、もしくは祖父母」から「18歳以上の子、もしくは孫」に対して、贈与をした際に選択できる贈与税の軽減制度です。この制度を使用した場合、贈与税を計算する際に2,500万円の特別控除が適用されます。通常の基礎控除が110万円と合わせて、大きな節税につながります。
また、2,500万円を超える部分の税率が、一律20%となるため、生前贈与を受ける家の評価額が高額であれば、より大きな節税効果を見込めます。
ただし、相続時精算課税制度を利用すると、相続時に支払う相続税が、高額となる可能性があるため、注意が必要です。
また、相続時精算課税制度は、申告にあたっての準備に手間がかかります。司法書士などの専門家であれば、手続きを代行できます。
同制度の利用をスムーズに進めたい場合は、一度司法書士等の専門家にご相談ください。
第5章 家を生前贈与するときの注意点
5-1 家族間の贈与であっても贈与契約書を作成する
生前贈与自体は、特に書面を交わさずにすることができます。しかし、後々のトラブル回避のためには、贈与契約書を作成すべきです。
例えば、贈与から数年たったのちに、贈与の有無でトラブルになるケースがあります。この際、契約書がないと大問題になりますが、有効な書面さえあれば、贈与が無効になることはありません。
トラブル発生時に迅速に対応するために、家族間の贈与であっても贈与契約書は作成してください。
5-2 相続人への贈与は特別受益にあたる場合がある
法定相続人に対して家を生前贈与した場合、その行為が特別受益にあたる場合があります。特別受益とは、特定の相続人が、被相続人が存命のうちに、贈与等を受けていたことにより、他の相続人より特別な利益を受けているとみなされるものです。
以下のケースをモデルに見ていきます。
- 相続人は、被相続人の長男と次男の2名
- 長男は、生前贈与によって、評価額5,000万円の家を取得していた
- その他の財産は、現金5,000万円のみ
- 遺産分割協議によって、法定相続割合どおりに相続することが確定
※今回のケースでは、長男・次男ともに2分の1が法定相続割合となる
この場合、長男は相続時に現金をまったく受け取れない恐れがあります。
長男は、被相続人が有していた財産である不動産と現金のうち、2分の1にあたる、5,000万円に相当する不動産をすでに受け取っているとみなされる可能性があるためです。この場合、現金5,000万円はすべて次男が相続します。
なお、おしどり贈与を活用して家の生前贈与を受けた配偶者の場合は、特別受益にはあたらない可能性が高くなります。
また、贈与者(被相続人)が存命のうちに、遺言書によって「該当の生前贈与は特別受益ではない」旨を明言しておけば、このトラブルは回避できます。
5-3 贈与者が3~7年以内に亡くなると贈与財産が相続税の課税対象となる
生前贈与の贈与者が、贈与から3年以内に亡くなった場合、相続上の計算上は、その贈与がなかったものとみなされ、相続税の課税対象財産に含まれます。結果として、相続税が高額となる可能性がある点は、注意が必要です。
なお、法改正により、2024年4月1日以降に成立した生前贈与の場合は、贈与がなかったことにされる期間が変更され、4〜7年の間で変動することとなっています。従来よりも、相続税の課税対象財産に含まれる期間が伸びたため要注意です。
5-4 不動産の贈与は相続より不動産取得税・登録免許税が高額になる
家などの不動産の生前贈与は、相続よりも不動産取得税・登録免許税が高額になる可能性があります。
不動産取得税・登録免許税の税率は、不動産を取得する方法によって、以下の表の通りに税率が変わります。
| 贈与の場合の税率 | 相続の場合の税率 | |
|---|---|---|
| 不動産取得税 | 3% | 原則0% |
| 登録免許税 | 2% | 0.4% ※ |
※法定相続人が相続する場合のみ
上記の通り、贈与と相続とでは、税率に差があります。家等の不動産の場合、その価値が数千万円以上になることが多いため、金額が大きく変わってきます。
そのため、「確実に渡せるから」という理由だけで家を生前贈与すると、かえって受贈者の不利益になる可能性があります。
実際、家を生前贈与するよりも、相続の方が税金が安くなる傾向にあります。また、相続時に活用できる制度を使えば、さらに税金を安くできます。
例えば、被相続人と相続人が同居している場合、その家には「小規模宅地等の特例」が適用できます。これによって、各種税金をさらに減らせます。
小規模宅地等の特例について、詳しく知りたい方は、以下の記事もご確認ください。
また、別居している家族に家を渡す場合でも、使用貸借の利用を検討できます。これならば、贈与の形を取らなくても、実質的に家を渡すことができます。相続時には、条件さえ満たせば、各種特例を適用させることも可能です。
このほか、相続トラブルの回避のためには、特別受益の持ち戻し免除を、遺言等で明言する必要もあります。
以上のように、家の生前贈与においては、様々な要素を検討しなければなりません。
まとめ:家の生前贈与については専門家への相談がおすすめ
この記事では、家を生前贈与する際の流れや税金について解説し、そのうえで節税方法や注意点について紹介しました。
家の生前贈与は、「相続した場合とどちらが税金的に得するのか」が非常に難しい分野です。よかれと思って行った生前贈与が、高額な税金の支払いにつながる可能性は十分あります。
「住まいの賢者」では、不動産の相続に強い司法書士と連携し、家の生前贈与に関する相談や依頼を受け付けています。家の生前贈与でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合せください。
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