目次
はじめに
相続不動産を売却すると税金がかかることから「相続不動産を売却すると損をする」と聞いたことはないでしょうか。
しかし、実際は必ずしも売却=損とは限りません。税制特例や控除を正しく活用し、適切なタイミングで売却すれば、節税しながら効率よく現金化することも可能です。
本記事では、相続不動産の売却で損をするケースと売却をおすすめするベストタイミングを解説します。
第1章 相続不動産の売却で損するケース
相続不動産は突然引き継ぐことが多く、十分な準備や知識がないまま売却を検討してしまいがちです。売却費用や市場価格の見極めを誤ることも多く「こんなはずではなかった」と感じるケースも珍しくありません。
まずは、相続不動産の売却で損をするケースを解説します。大切な財産を売却する際に損をしないためにも、どこに注意するべきか確認しましょう。
1-1 税制優遇を活用できない
相続不動産の売却には、一定の条件を満たせば利用できる特例があります。
例えば、空き家やマイホームを売却する際に譲渡所得を引き下げることができたり、不動産を譲渡した場合に相続税の一定額を取得費に加算したりできる制度があります。
適用要件を知らずに期限を過ぎてしまうと、本来受けられる控除を受けられないため注意しましょう。
1-2 取得費が不明
相続不動産を売却する際に支払う譲渡所得税は「譲渡所得=売却価格−取得費−譲渡費用」で計算されます。
ただし、被相続人が購入した当時の契約書などが見つからず取得費が不明な場合、概算取得費として売却額の5%しか差し引けません。概算取得費を選択すると税額が大きくなるため注意しましょう。
取得費は、金融機関の融資資料や確定申告書の控え、登記情報などから推測できる場合もあるため、早い段階で慎重に資料を探すことをおすすめします。
1-3 資産価値が下がっている
不動産は立地がすべてと言われますが、同じ地域でも需要は常に変化しています。
人口減少や周辺環境の変化により、相続不動産の価格が下落しているケースも多く、売却価格が想定より低くなることもあるでしょう。
売却できないからと維持費や固定資産税を払い続けた結果、最終的に手元に残る金額が少なくなることもあるため、市場動向を見極めることが大切です。
1-4 適切に査定や売却活動を行っていない
売却活動は写真の撮り方や価格設定、販売方法の選び方などで結果が変わります。
広告活動や販売戦略が不十分だと、値下げを繰り返すことになりかねません。
また、不動産会社1社だけの査定で売却価格を決めてしまうと、相場より安く売却してしまう可能性があるため注意しましょう。複数社に査定を依頼し、販売実績や提案内容を比較することで、納得のいく価格での売却が期待できるでしょう。
第2章 相続不動産を売却するベストタイミング
相続不動産の売却で損するかどうかは、タイミングに左右されます。
売却時期によって税額や手取り額が大きく変わるため、焦って不動産を売ることも、放置することも得策とは限りません。特例の適用期限や市場の動きなどを踏まえ、自分にとって最適なタイミングを見極めましょう。
では、相続不動産を売却するベストタイミングを解説します。
2-1 相続から3年以内である
相続税を支払っている場合「取得費加算の特例」を利用できる可能性があります。
取得費加算の特例とは、相続不動産や株式を相続開始から3年10か月以内に売却した場合、納付した相続税の一部を取得費に加算できる制度のことです。
この制度によって、譲渡所得を圧縮できるため節税効果が期待できるでしょう。相続税申告のスケジュールと合わせて、売却計画を立てると効率的です。
2-2 相続税の納税資金が不足している
相続税は、原則として相続開始から10か月以内の納付が義務付けられています。
財産を相続して納税資金が不足した場合、期限が迫るなかで資金調達を考えることは大きな負担になるでしょう。早めに不動産の査定を取り、売却可能な価格を把握しておくと資金計画が立てやすくなります。
延納や金融機関からの一時的な借入などの選択肢もありますが、利息負担を考えると売却のほうが合理的なケースが多く見られるでしょう。
2-3 市況が上向き
不動産価格は景気や金利動向に左右されます。需要が高まり価格が上昇している局面では、売却によって高値が期待できるでしょう。
国土交通省の公示地価や不動産流通機構の成約データなどを参考にして、上昇傾向にあるなら売却を検討する価値があります。
感覚だけで判断せず、数値を確認することも損を防ぐポイントです。
2-4 再開発などで地価上昇が見込まれる
駅の新設や大型商業施設の建設など、地価上昇が見込まれる場合は、すぐに売らず様子を見る選択肢もあります。
再開発計画は、自治体のホームページや都市計画情報から確認できますが、計画が延期や中止になるリスクもあるため、過度な期待は禁物です。
また、完成まで数年かかることも多く、その間の固定資産税や管理費を負担し続ける必要があるため注意しましょう。
第3章 相続不動産の売却にかかる税金と費用
相続不動産を売却する際は、売却代金がそのまま手元に残るわけではありません。
税金や各種費用を差し引いた金額が最終的な手取りになるため、売却にかかる税金と費用を把握しておかないと、想定より手取りが少なくなることがあります。
あらかじめ概算シミュレーションをして、資金計画のズレを防ぎましょう。
では、相続不動産の売却にかかる税金と費用を解説します。
3-1 譲渡所得税
譲渡所得税とは、売却によって利益が出た場合に課税される税金です。
所得税・住民税・復興特別所得税を合わせたもので、所有期間が5年以下か超えるかで税率が異なり、5年を超えるほうが税率が低くなります。
相続の場合、被相続人の所有期間を引き継ぐため、思ったより低い税率になることも珍しくありませんが、事前に試算しておくと安心です。
3-2 印紙税
売買契約書を作成する際は、印紙税が必要です。
契約金額に応じて税額が定められており、数千円から数万円程度が一般的です。金額自体は大きくありませんが、必要経費として把握しておきましょう。
また、電子契約を利用すれば不要になるケースもあるため、不動産会社に確認しておくことをおすすめします。
3-3 登録免許税
相続登記や抵当権抹消登記を行う際は、登録免許税がかかります。
相続登記は2024年4月より義務化されており、売却の有無に限らず、現在では必ず手続きが必要です。司法書士へ依頼する場合は報酬も必要になるため覚えておきましょう。
また、売却手続きは相続登記を行わないと始められないため注意が必要です。
3-4 仲介手数料
不動産会社に仲介を依頼する場合、成功報酬として仲介手数料が発生します。
仲介手数料の上限は決められており、400万円以上の不動産を売却する場合は「売却価格×3%+6万円+消費税」となります。
あくまで上限のため、値引き交渉が可能な場合もありますが、単に安さで選ぶのではなく販売力やサポート体制を重視しましょう。
第4章 相続不動産を売却する際に使える特例
相続不動産の売却では、税負担を軽減できる特例が用意されています。
ただし、条件を一つでも満たさないと適用外になるため、事前に確認しておきましょう。また、自動的に適用されるわけではなく、確定申告での手続きが必要です。
では、相続不動産を売却する際に使える特例を紹介します。
4-1 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
被相続人が一人で住んでいた住宅を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です。
「空き家の3,000万円特別控除」と呼ばれることが多く、相続人の税負担を大きく軽減することができます。ただし、昭和56年5月31日以前建築の建物であること、相続開始から売却まで事業用や賃貸用に供していないことなどが条件です。
手続きには市区町村の確認書類が必要になるため、早めに準備を進めましょう。
4-2 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続税を支払った人が、相続開始の翌日から3年10か月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税のうち一定額を取得費に加算できる特例です。
取得費が増えることで譲渡所得が減り、その分だけ譲渡所得税を抑えることができます。
ただし、取得費加算の特例は相続税を支払った人のみが対象です。相続人全員が特例を使えるわけではないため、遺産分割協議を行う際は慎重に進めましょう。
4-3 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
マイホームを売ったときの軽減税率の特例は、通常の長期譲渡所得税率よりも低い税率が一部に適用されます。
ただし、次の5つの要件すべてに当てはまることが条件です。
- 売った資産が法令に定める一定の要件を満たすこと
- 売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること
- 売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていないこと
- 売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例の適用を受けていないこと
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないこと
ただし、例外として3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は併用することができます。要件に当てはまるか不安な場合は、専門家に相談することをおすすめします。
第5章 相続不動産を売却して損をした場合に使える特例
不動産価格が下落している局面では、相続不動産の売却で損失が出ることもあります。
「結局、損をするなら売却しないほうがよいのでは」と思う方もいるかもしれませんが、損失を無駄にしない制度があります。
条件を満たせば所得税の負担を軽減できるため、忘れずに確認しましょう。
では、相続不動産を売却して損をした場合に使える特例を解説します。
5-1 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
住宅ローン残高があるマイホームを売却し、譲渡損失が生じた場合に利用できる特例です。
例えば、売却により1,000万円の損失が出た場合、一定の要件を満たせば、その年の給与所得と相殺することで所得税や住民税の還付を受けられる可能性があります。
また、損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年間繰り越して控除することができます。
ただし、損益通算を行うには確定申告が必須です。給与所得者でも申告が必要になるため注意しましょう。
5-2 マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
住み替えのために自宅を売却し損失が出た場合に、その損失を他の所得と損益通算できる特例です。特例を適用するためには、新居を一定期間内に取得し、かつ住宅ローンを利用していることなどが条件となります。
相続不動産を自宅として利用していたケースでも条件を満たせば対象になるため、赤字売却になった場合は、制度の活用を検討しましょう。
第6章 相続不動産を売却する前に必要な準備
スムーズに相続不動産を売却するためには、相続人同士の合意形成や書類整理を事前に進めておくことが重要です。
特に共有名義の場合は、全員の同意がなければ売却できません。遺産分割協議を丁寧に行い、あとから異議が出ないように書面で残しておくことが大切です。
ここからは、相続不動産を売却する前に必要な準備を解説します。
6-1 遺言書の有無を確認する
遺言書がある場合、原則としてその内容に従って相続が行われます。
内容を確認せずに手続きを進めると、トラブルになる可能性があるため、まずは遺言書の有無を確認して相続人全員で共有しましょう。
また、公正証書遺言であれば検認は不要ですが、自筆証書遺言の場合は家庭裁判所での検認が必要です。遺言の解釈を誤ると無効や争いの原因になるため、内容に不明点がある場合は専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
6-2 相続登記をする
不動産を売却するには、名義を相続人に変更する必要があります。相続登記を済ませていないと売却できないため注意が必要です。
また、相続登記をする際は戸籍謄本や住民票など、多くの書類が必要です。手続きが複雑な場合は司法書士に依頼することで、ミスや書類不備を防ぐことができます。
売却スケジュールを見据えて、余裕をもって進めましょう。
6-3 必要書類を集める
相続不動産を売却する際は、登記簿謄本や固定資産税評価証明書、売買契約書など、多くの書類が必要です。
書類不足は売却スケジュールの遅れにつながるため、チェックリストを作成して漏れなく準備しましょう。
また、建築確認済証や検査済証、リフォーム履歴などがあれば、買主に安心感を与えられます。書類が整っている物件は信頼性が高く、スムーズな取引につながります。
6-4 専門家に依頼する
特例の適用判断や税額の試算は、専門知識が必要です。
不動産会社だけではなく、税理士や司法書士などの専門家に相談することで、手続きの手間を大幅に減らすことができます。
初期相談を無料で受けられる場合も多いため、自己判断で進めずに、早めに専門家のアドバイスを受けるとよいでしょう。
第7章 相続不動産を売却したら確定申告が必要
相続不動産を売却した場合、原則として翌年の2月16日から3月15日までに確定申告が必要です。
利益が出た場合はもちろん、特例を利用する場合も申告が前提となるため、必要書類を早めに準備し、期限内に申告しましょう。
準備不足だと期限に間に合わない可能性もあるため、売却が完了した直後から書類整理を始めておくと安心です。
7-1 確定申告をしないとどうなる?
確定申告をしないと、無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。
さらに、意図的に確定申告をしていなかったなど、悪質と判断された場合は重加算税が課されることもあるため早めの対応が重要です。
また、特例の適用は原則として期限内申告が条件です。あとから修正申告をしても適用できないケースがあるため、税務署から通知が来る前に自主的に申告しましょう。
7-2 例外で確定申告が不要なケース
例外で、売却時の譲渡益がなく、特例も利用しない場合は確定申告が不要となることがあります。
また、給与所得者で一定の要件を満たし、給与以外の所得が20万円以下の場合も不要です。ただし、所得税の申告をしない場合でも住民税の申告が必要になることがあるため、自治体にも確認しましょう。
また、本当に確定申告が不要かどうか自己判断することは危険です。一度は税理士や税務署に相談しておくことをおすすめします。
まとめ:相続不動産を売却すると損するかはタイミングと特例次第
相続不動産の売却が本当に損になるかどうかは、売却時期や税制特例の活用状況によって変わります。
制度を知らずに売却すると、支払う税金が増える可能性がありますが、適切に準備することで負担を抑えられます。
売却して損をすることを避けるためにも、まずは現状を整理して、専門家と相談しながら最適なタイミングを見極めましょう。
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