はじめに
相続によって不動産を取得したものの、「売却するまでにどれくらいの期間がかかるのか」「できるだけ早く売却したい」と考えている方も多いのではないでしょうか。
相続した不動産をそのまま保有していると、固定資産税や管理費などの維持費がかかり続けます。また、空き家の状態が続くと建物の老朽化が進んだり、管理の負担が増えたりするため、早めに売却して現金化したいと考えるケースは少なくありません。
ただし、相続不動産を売却する際は遺言書の確認や遺産分割協議、相続登記などの手続きを経る必要があり、完了までに時間を要します。
本記事では、相続不動産の売却にかかる期間の目安や売却までの流れ、期間が長引く主な理由について解説します。売却時に利用できる税金の特例についても紹介するので、相続不動産の売却を検討している方はぜひ参考にしてください。
第1章 相続不動産の売却には半年から1年を要する
相続した不動産を売却する場合、相続開始から売却完了までに半年から1年程度かかるとされています。ここでいう相続開始とは、一般的には被相続人が亡くなった日を指します。相続不動産の売却では、通常の不動産売却とは異なり、遺言書の確認や相続人の確定、遺産分割協議、相続登記などの手続きを行う必要があります。
さらに、不動産会社に売却を依頼してから買主が見つかるまでにも一定の時間がかかるのが一般的です。物件の立地や建物の状態、売り出し価格などによっては、売却までに数ヶ月以上かかることもあります。このように、相続不動産の売却には複数の手続きと時間が必要となるため、売却を検討している場合は全体の流れを把握し、早めに準備を進めることが大切です。
第2章 相続不動産を売却する流れ
相続不動産を売却する流れは以下の通りです。
STEP① 遺言書の有無を確認する
まずは、被相続人が遺言書を残しているかどうかを確認しましょう。遺言書がある場合には、原則としてその内容に従って遺産の分け方が決まります。
なお、自宅などで遺言書が見つかった場合には、家庭裁判所で検認手続きが必要になることがあります。まずは遺言書の有無と内容を確認し、その内容に基づいて相続手続きを進めることが重要です。
STEP② 相続財産と相続人を明確にする
遺言書の有無を確認したら、次に相続財産の内容と相続人を確定します。相続では、不動産だけでなく、預貯金や株式、自動車などの資産に加え、借入金などの負債も含めて整理する必要があります。相続財産の全体像を把握しておくことで、遺産分割や不動産売却の方針を決めやすくなります。
また、誰が相続人になるのかを確定することも重要です。相続人を確認するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集し、法律上の相続人を調査します。場合によっては、配偶者や子供だけでなく、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になるケースもあります。
相続人が確定していない状態では、遺産分割協議や相続登記を進めることができません。そのため、相続不動産の売却を進めるためにも、まずは相続財産と相続人を正確に把握することが重要です。
STEP③ 遺言書がない場合は遺産分割協議を行う
遺言書がない場合には、相続人全員で遺産の分け方を話し合う遺産分割協議を行います。不動産を売却する場合には「誰が不動産を取得するのか」「売却して現金を分けるのか」といった点について相続人全員の合意が必要です。
相続不動産を売却する場合は、まず特定の相続人が不動産を取得したうえで売却する方法や、相続人全員で共有名義にしてから売却する方法などが考えられます。どの方法を選ぶかによって、その後の手続きの進め方も変わります。
話し合いの内容がまとまったら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印します。遺産分割協議書は今後の手続きで必要になるため、内容を明確に記載しておくことが重要です。
なお、相続人が多い場合や不動産の扱いをめぐって意見が分かれる場合には、遺産分割協議がまとまるまでに時間がかかることもあります。相続不動産をスムーズに売却するためには、相続人同士で早めに話し合いを進めることが大切です。
STEP④ 相続登記を行う
遺産分割協議で不動産の取得者が決まったら、相続登記(名義変更)を行います。相続登記とは、被相続人名義になっている不動産を相続人の名義に変更する手続きです。被相続人名義のままでは売買契約を締結することができないため、売却を進める前に相続登記を完了させておくことが重要です。
相続登記では、戸籍謄本や住民票、遺産分割協議書などの書類を準備し、法務局に申請を行います。なお、2024年4月から相続登記は義務化されており、相続を知った日から3年以内に申請しなければならないとされています。正当な理由なく申請を行わない場合には過料の対象となる可能性があるため、相続不動産を売却する予定がある場合は、早めに相続登記を行うことが大切です。
STEP⑤ 不動産会社に査定を依頼する
相続登記が完了したら、不動産会社に査定を依頼します。査定では、立地や建物の状態、周辺の取引事例などをもとに、売却できる可能性のある価格の目安が提示されます。
査定価格を参考に売り出し価格を決め、その後の売却活動を進めていくことになります。不動産会社によって査定額や販売方針が異なる場合もあるため、複数の会社に査定を依頼し、内容を比較したうえで依頼先を検討すると良いでしょう。
STEP⑥ 媒介契約を結び売却活動を開始する
売却を依頼する不動産会社が決まったら、媒介契約を締結します。媒介契約とは、不動産会社に売却活動を依頼するための契約です。
媒介契約を結ぶと、不動産会社が広告掲載や購入希望者への紹介などの売却活動を行います。内覧対応や価格調整を行いながら、購入希望者を探していくことになります。
STEP⑦ 売買契約を結んで物件を引き渡す
購入希望者が見つかり、売却価格や引き渡し時期などの条件がまとまったら、売買契約を締結します。売買契約では、売却価格や手付金、引き渡し日などの契約条件を確認したうえで、売主と買主が契約書を取り交わします。
契約締結後は、決済日までに引き渡しの準備を進めましょう。具体的には、住宅ローンが残っている場合の抵当権抹消の手続きや、建物の明け渡し、必要書類の準備などを行います。
その後、決済日に買主から残代金の支払いを受け、物件の引き渡しを行います。同時に所有権移転登記などの手続きも行われ、これらが完了すると相続不動産の売却は完了です。
第3章 相続不動産の売却期間が長引く主な理由
ここでは、相続不動産の売却期間が長引く主な理由について解説します。
3-1 相続人同士の話し合いがまとまらない
相続不動産を売却するためには、原則として相続人全員の合意が必要です。相続人同士の意見がまとまらない場合、売却手続きを進めることができず、売却までの期間が長引いてしまいます。
例えば、「売却して現金で分けたい人」と「不動産を残しておきたい人」で意見が分かれるケースや、売却価格の考え方に違いがあるケースなどでは、遺産分割協議がまとまるまでに時間がかかることがあります。
また、相続人が遠方に住んでいる場合や人数が多い場合には、連絡や書類のやり取りに時間がかかることも少なくありません。相続不動産の売却をスムーズに進めるためには、できるだけ早い段階で相続人同士の話し合いを進め、売却方針を共有しておくことが重要です。
3-2 相続登記が完了していない
相続不動産を売却するためには、まず不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する相続登記を行う必要があります。被相続人名義のままでは、不動産を売却することができません。
しかし、相続登記には戸籍謄本の収集や遺産分割協議書の作成などが必要となるため、手続きに時間がかかる場合があります。特に、相続人が多い場合や戸籍の収集に時間を要する場合には、相続登記の完了までに数ヶ月を要するかもしれません。
このように相続登記が完了していない状態では、不動産会社への売却依頼や売買契約を進められません。相続不動産の売却期間が長引く原因になるため、相続不動産の売却を検討している場合は、早めに相続登記を進めることが重要です。
3-3 不動産の立地や条件が悪い
相続不動産の立地や建物の状態によっては、購入希望者が見つかるまでに時間がかかることがあります。例えば、駅から遠い物件や人口減少が進んでいる地域の不動産、築年数が古く老朽化が進んでいる住宅などは、需要が限られるため売却期間が長くなる傾向があるでしょう。
また、周辺の相場より高い価格で売り出している場合にも、買主が見つかりにくくなります。売却期間を短くするためには、不動産会社と相談しながら市場の相場を踏まえた価格設定を行うことが重要です。
3-4 共有名義になっている
相続不動産が共有名義になっている場合、売却するためには共有者全員の同意が必要になります。共有者の意見が一致しない場合には売却手続きが進まず、売却期間が長引く原因となります。
また、共有者が遠方に住んでいる場合には、意思確認や書類のやり取りに時間がかかります。さらに、共有者の中に売却に反対する人がいると、売却自体が難しくなるケースもあります。このようなトラブルを避けるためにも、相続不動産を売却する予定がある場合は、遺産分割の段階で共有名義にするかどうかを慎重に検討することが重要です。
第4章 相続不動産の売却時に使える特例
相続不動産を売却した場合、売却によって利益(譲渡所得)が出ると譲渡所得税が課税されます。ただし、一定の条件を満たす場合には税負担を軽減できる特例を利用することが可能です。ここでは、相続不動産の売却時に利用できる特例について解説します。
4-1 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例(空き家特例)
空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例とは、相続した空き家を売却した際に、以下のような要件を満たすことで譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
- 被相続人(亡くなった方)が1人で居住していた住宅であること
- 昭和56年5月31日以前に建築された旧耐震基準の家屋であること
- 相続開始の時点で被相続人以外の居住者がいなかったこと
- 相続開始から3年以内の年末までに売却すること
- 売却価格が1億円以下であること
- 相続後に、他人に貸したり、事業用・事務所用として使用していないこと
- 売却時点で、建物を解体して更地にしているか、または耐震基準を満たすリフォームを行っていること
例えば、相続した空き家を5,000万円で売却し、取得費や譲渡費用の合計が2,000万円だった場合、本来の譲渡所得は次のように計算されます。
5,000万円−2,000万円=3,000万円
通常は、この3,000万円に対して譲渡所得税が課税されます。しかし、この特例を利用できる場合は、譲渡所得から最大3,000万円を控除することができます。
3,000万円−3,000万円=0円
この場合、課税対象となる譲渡所得は0円となるため、譲渡所得税は課税されません。このように、譲渡所得から3,000万円を控除できれば、課税対象となる金額を減らせるため、税負担の軽減に繋がります。
4-2 取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、相続した不動産を売却する際に、支払った相続税のうち売却した不動産に対応する金額を取得費に加算できる制度です。
通常、不動産を売却した際の譲渡所得は「売却価格-取得費-譲渡費用」で計算されます。しかし、以下の条件を満たせば取得費加算の特例が利用でき、取得費を増やすことによって譲渡所得を抑え、結果として譲渡所得税の負担を軽減することが可能です。
- 相続や遺贈により財産を取得している
- その財産を取得した人に相続税が課税されている
- その財産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡している
例えば、相続財産の総額が1億円で、そのうち売却する不動産の相続税評価額が4,000万円だったとします。また、相続税として合計500万円を支払っていた場合、このうち不動産に対応する相続税額は次のように計算されます。
500万円×(4,000万円/1億円)=200万円
この場合、200万円を取得費に加算することが可能です。
例えば、不動産を5,000万円で売却し、取得費と譲渡費用の合計が2,000万円だった場合、本来の譲渡所得は次のようになります。
5,000万円−2,000万円=3,000万円
しかし、取得費加算の特例により200万円を取得費に加算できるため、取得費は次のようになります。
2,000万円+200万円=2,200万円
その結果、譲渡所得は次のように圧縮されます。
5,000万円−2,200万円=2,800万円
このように取得費が増えることで、課税対象となる譲渡所得を抑えることが可能です。
まとめ
相続不動産の売却には、遺言書の確認や遺産分割協議、相続登記などの手続きが必要になるため、売却完了までには一般的に半年から1年程度かかるとされています。
また、相続人同士の話し合いがまとまらない場合や、相続登記が完了していない場合、物件の条件によっては、売却までの期間がさらに長引くこともあります。そのため、相続不動産を売却する予定がある場合は、全体の流れを理解したうえで早めに準備を進めることが重要です。
相続不動産の売却は、相続手続きと不動産売却の両方の知識が求められるため、手続きが複雑になるケースも少なくありません。スムーズに売却を進めるためには、司法書士や不動産会社などの専門家に相談しながら進めることも検討すると良いでしょう。
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