相続人が未確定でも不動産の管理義務はある?対応を専門家が解説

相続人が未確定でも不動産の管理義務はある?対応を専門家が解説
執筆者: 中西孝志

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目次

はじめに

相続が発生したものの、相続人が全員確定していない。その間、不動産をどう管理すればいいのかお悩みではありませんか。

しかし、相続人が確定するまでの間も、不動産を放置してよいわけではありません。建物の老朽化や不法侵入、固定資産税の滞納、近隣トラブルなど、さまざまなリスクは相続の手続きが完了するのを待ってはくれないからです。

本記事では、相続人が未確定の期間における不動産管理の義務や具体的な対応手順、やってはいけない行為、放置した場合のリスクについて、司法書士監修のもとわかりやすく解説します。

第1章 相続人が未確定でも不動産の管理義務はある

「相続人未確定」とは、戸籍上の相続人は存在するものの、遺産分割協議が成立しておらず、誰がどの財産を引き継ぐか決まっていない状態を指します。

なお「相続人不存在」の場合は、戸籍を遡っても相続人が一人もいない、あるいは法定相続人の全員が相続放棄をして、法律上の受け取り手が誰もいなくなった状態のことを指します。

相続人が未確定であっても、不動産の管理を後回しにすることはできません。民法では、判明している相続人に対して相続財産を適切な管理が義務付けられていると定められているからです。

本章では、相続人未確定の段階でも発生する管理義務や、固定資産税の支払いについて解説します。

1-1 民法上の「相続財産の管理義務」とは

相続が発生した時点で、判明している相続人には不動産を含む相続財産を管理する義務が生じます。

民法第918条では、次のように定められています。

相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。

引用:民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百十八条/e-Gov法令検索

これは「相続の承認または放棄をするまでの間」に適用されるルールです。

戸籍収集が途中であり、まだ相続人が存在する可能性があっても、すでに相続人とわかっている方には相続不動産を適切に管理する義務があるということです。

管理義務を怠り、建物の倒壊や近隣への損害が生じた場合には、現時点で判明している相続人が損害賠償を請求されるリスクもあります。

相続の手続きが全て終わってから管理を始めるのでは遅い場合があることを認識しておきましょう。

1-2 固定資産税は誰が払うか

相続人未確定の期間中、法律上は法定相続人全員がそれぞれ全額を納税する義務を負っています。

ただ実際には、相続人の一人が立替払いをするケースが多いでしょう。立替払いをした相続人は、後の遺産分割協議で他の相続人に支払いを求めることができます。
固定資産税の納税通知書の送付先については、市区町村に「相続人代表者指定届」を提出することで、通知先を一人に集約できます。

提出していなければ、複数の相続人へそれぞれ通知が届くことになり、混乱を招くことも考えられます。できれば、早めに相続人代表者指定届の手続きをしておくことをおすすめします。

ただし、相続人代表指定届で指定された相続人が必ず固定資産税を立て替えなければならないわけではない点には注意してください。

第2章 相続人未確定の期間にやるべき管理・対応【STEP別に解説】

不動産は放置すると老朽化やトラブルの原因になりやすいため、相続人が未確定であっても早めに不動産の状況を把握して対処することが重要です。

本章では、相続人未確定の段階で優先して取り組むべき対応をステップ別に解説します。

STEP① 戸籍収集を最優先に進める

相続人を確定させるために、まず取り組むべきは戸籍の収集です。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を、本籍地の役所に請求するところから始めます。本籍地が複数にわたる場合は、それぞれの役所へ請求する必要があります。

2024年3月からは「広域交付制度」が始まり、最寄りの市区町村の窓口で、他の市区町村の戸籍も取得できるようになりました。本籍地が遠方にある場合でも手続きが簡略化できるため、積極的に活用しましょう。

ただし、データ化されていない古い戸籍に関しては、広域交付制度では請求できません。また、郵送や代理人請求ができない点にも注意が必要です。広域交付制度を利用するには、相続人自身が直接窓口で手続きする必要があります。

参考:戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)/法務省

戸籍収集の作業は手間と時間がかかるため、司法書士や行政書士に依頼するのも一つの選択肢です。専門家に任せることで、収集漏れや手続きミスのリスクを減らして負担を軽くできるのは大きなメリットといえます。

STEP② 法定相続情報一覧図を取得する

戸籍の収集が完了したら、法務局に「法定相続情報一覧図」の申請をすることをおすすめします。

法定相続情報一覧図とは、相続関係をまとめた図を法務局が認証してくれる制度です。認証を一度取得すれば、金融機関や各種手続きで戸籍の束を何回も取得して提出する手間が省けます。

法定相続情報一覧図の申請には、決められた様式に沿って作成した一覧図と戸籍一式が必要です。

法定相続情報一覧図記載例

出典:法定相続人が配偶者及び子である場合/主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例/法務局

様式については、法務局のサイトに掲載されています。

参考:主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例/法務局

法定相続情報一覧図は、2024年4月から義務化された相続登記に対応する際、自らが相続人であることを証明する書類としても役立ちます。

STEP③ 相続不動産の現状を把握・記録しておく

相続人が全員確定する前から、不動産の現状を把握・記録しておくことも大切です。

まず、固定資産税評価証明書や登記簿謄本(登記事項証明書)を市区町村の役場で取得し、不動産の基本情報を把握します。

次に、建物の状態を外観・内部ともに写真で記録しておきます。後の遺産分割協議でリフォームの要否や売却価格を検討する際の基礎資料になるためです。

対象の不動産が賃貸物件の場合は、賃貸借契約書や入居者情報も早めに確認しておきましょう。管理会社が入っている場合は、担当者の連絡先も把握しておくと安心です。

STEP④ 相続登記が遅れそうなら「相続人申告登記」を行う

相続登記は相続の開始から3年以内が期限であり、未申告のまま放置していると10万円以下の過料が科せられるリスクがあります。

しかし、戸籍の取得に時間がかかって相続人がなかなか確定しなかったり、遺産分割協議が長引いたりした場合は、期限を超えても不動産の名義を誰にするか決められないケースもあります。

相続発生から3年が過ぎても相続登記が難しい場合は、法的義務を果たすために「相続人申告登記」を行いましょう。

相続人申告登記では、法務局に以下の書類を提出します。

  • 相続人申告登記申出書
  • 申告者が相続人であることを証明する書類(戸籍、法定相続情報一覧図など)
  • 申告者の住所証明書(住民票など)

相続人申告登記は相続登記の義務化に伴い新設された手続きで、この申告には登録免許税がかかりません。ただし、申告者が不動産の名義人になるわけではありません。そのため、相続人申告登記をしただけでは不動産の売却はできない点に注意してください。

第3章 相続人未確定でも最低限やっておきたい日常の管理

相続人の確定を待つ間も、不動産の日常的な管理は続けなければなりません。最低限、以下の対応は行うようにしましょう。

  • 建物の定期確認
  • 火災保険の継続確認
  • 家賃の収受と管理会社との連絡継続(賃貸物件の場合)

空き家の場合は、定期的に建物を訪問し、破損・不法侵入・老朽化がないかを確認します。放置すると、劣化が急速に進むほか、不法投棄や不法占拠の被害に遭うリスクもあります。

空き家になると、現状で入っている火災保険では対象外になる可能性があります。保険会社に連絡し、今の状況を報告して空き家でも対象になる保険に切り替えるなどの対処が必要です。

契約更新のタイミングを逃すと、万一の際に補償を受けられなくなるため、早急に確認しましょう。

家の火災保険について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。

また、賃貸不動産の場合は、家賃の収受や管理会社との連絡を継続することが必要です。入居者との契約関係は相続発生後も継続されるため、対応を止めることはできません。管理会社に連絡し、現状の説明と今後のことを話し合っておく必要があります。

第4章 相続人未確定の間にやってはいけない5つのこと

相続人未確定の期間中は、焦りや善意から取ってしまいがちな行動でも、後々大きなトラブルに発展するケースがあります。

この章では、相続人がまだ定まっていない状況では避けるべき行動を解説します。

4-1 相続人の一人が独断で売却・名義変更を進めてしまう

相続財産である不動産を、相続人の一人が単独で売却したり、自分名義に変更したりすることはできません。

遺産分割が完了するまでの不動産は、法定相続人全員の共有財産です。一人の判断で動かすことは、他の相続人の権利を侵害する行為にあたり、法的トラブルに発展する可能性があります。

仮に法定相続分の持分を売却しようとしても、買主は見ず知らずの親族(他の相続人)と不動産を共有することになります。自由にリフォームや貸出しできない不動産の一部を購入する人はほぼいないでしょう。

4-2 相続人の一人が勝手にリフォームや解体をしてしまう

「古い家だから早く解体したい」「自分できれいにリフォームしよう」と考えたとしても、他の相続人の合意なしに大規模な工事を行うことは避けるべきです。

リフォームすると不動産の価値は変わってしまいます。そのため、「管理行為」を行ったとみなされるのです。管理行為は、他の相続人の過半数の同意がなくては認められません。

また、建物の解体や大規模な増改築は「変更行為」にあたります。変更行為には、相続人全員の同意が必要です。

「管理行為」「変更行為」ともに、相続人の同意なく行うと他の相続人から損害賠償を請求されるリスクがあります。

ただし、雨漏りやひび割れた壁の修理など建物を現状維持するための補修は「保存行為」とみなされるため、他の相続人の同意なしに行えます。

4-3 相続人の一人が不動産を占有する

相続人の一人が不動産を独占的に使用・居住することも問題です。他の相続人の持分を無視した占有は、不当利得や不法行為として争いになることがあります。

自分の持分以上に不動産を独り占めして使っているなら、その分の賃料相当額の金銭を支払う必要が出てくるのです。

4-4 相続人の一人が遺品の整理・処分(形見分けを超えるもの)をしてしまう

遺品整理自体は必要なことですが、資産価値のある物品を許可なく処分することは問題です。

形見分けの範囲を超えた家財や貴重品の処分は、相続財産の横領とみなされる場合があります。処分の前に、必ず他の相続人と協議するようにしましょう。

4-5 【賃貸物件】相続人の一人が賃貸契約の更新や家賃を独占受領する

相続する財産に賃貸不動産がある場合、相続人の一人が勝手に賃貸契約の更新を行ったり、家賃収入を独り占めにしたりすることも避けなければなりません。

相続人が未確定の間に発生した家賃収入は、「未分割遺産から生ずる不動産所得」として扱われ、各相続人が法定相続分に応じて取得する権利があります。遺産分割協議が済んで不動産を相続する人が決まった後でも、それ以前に取得した家賃を相続した人に返還する必要はありません。

なお、賃貸不動産にかかる経費(マンション管理費や修繕費など)についても同様に、法定相続分だけ負担しなければなりません。

4-5-1 相続した賃貸不動産から得た収入の確定申告はどう扱うか

遺産分割が完了する前であっても、法定相続分に応じて各相続人で確定申告するのが原則です。

確定申告の期限は翌年の3月15日(所得の種類等によって異なる場合あり)です。申告漏れがあると、後から延滞税や加算税が発生することもあります。具体的な申告方法については、税理士など専門家に相談することをおすすめします。

ただし、被相続人(亡くなった人)の所得にかかる確定申告(準確定申告)は、4か月以内に行わなければならない点には気をつけてください。

第5章 相続人未確定のまま不動産管理を放置するリスク

相続人の確定や遺産分割協議を先送りにし、不動産を放置し続けることには、さまざまなリスクが伴います。ここでは、放置のリスクについて解説します。

5-1 相続登記義務化に違反して過料を負うリスク

2024年4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行うことが法律で義務付けられました。なお、2024年4月1日以前に相続した不動産についても、2027年3月31日が期限と定められています。

義務に違反した場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。話し合いがまとまっていない場合でも、相続人申告登記を活用して期限内の対応を心がけましょう。

5-2 相続不動産が特定空家・管理不全空家に認定されるリスク

管理が行き届かず老朽化した空き家は、市区町村から「管理不全空家」や「特定空家」に認定される可能性があります。この認定を受けたのち、「勧告」を受けるまで状況が改善されなければ、固定資産税の「住宅用地特例」(土地の固定資産税を最大6分の1に軽減する制度)が解除されて税負担が大幅に増加する恐れがあります。

さらに、行政指導や命令に従わない場合は行政代執行(行政が強制的に解体等を実施し、費用を所有者に請求する)が行われるケースもあります。近隣住民とのトラブルに発展する前に、最低限の管理は続けるようにしましょう。

5-3 相続人同士の関係が悪化するリスク

相続人を未確定のまま長期間放置することで、相続関係がさらに複雑化するリスクもあります。相続人の一人が亡くなると、その方の相続人が新たに加わる「数次相続」が発生します。当初は数人で話し合えばよかったものが、関係者が10人・20人に膨れ上がることも珍しくありません。

こうなると相続に関する話し合いはますます難航し、その間も不動産の価値は下がっていきます。管理を放置していると、不要な不動産の押し付け合いにもつながり、相続人同士の関係が悪化するリスクが高まります。

まとめ:不動産は相続人未確定のまま放置するのが最も危険!早めの管理対応を

相続人が未確定であっても、不動産の管理義務は発生しています。固定資産税の納税や日常的な建物管理など、「遺産分割協議が終わるまで待つ」という姿勢では対応が後手に回ってしまいます。

また、相続登記の義務化・空家対策の強化・数次相続による権利関係の複雑化など、放置することで生じるリスクは年々大きくなります。

まずは戸籍収集を進めて相続人を確定させ、並行して不動産の現状把握と最低限の管理を行うことが重要です。一人で対応が難しい場合は、司法書士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。

この記事の執筆者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

株式会社あんしんリーガル 宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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