はじめに
相続によって不動産を取得したものの、「使う予定がないので売却したい」「空き家の管理は難しい」と考えている方も多いのではないでしょうか。相続不動産の売却は通常の不動産売却とは異なり、事前に行うべき手続きや確認事項が多く、順番を誤ると売却が進まなかったり、思わぬトラブルに発展したりする可能性があります。
そのため、相続不動産の売却をスムーズに進めるためには、「何を」「どの順番で」行うべきかを事前に整理しておくことが重要です。
本記事では、相続不動産の売却前にやるべきことを時系列に沿って解説します。また、やってはいけない注意点や、事前に確認しておきたい税金・費用についても紹介しますので、これから売却を検討している方はぜひ参考にしてください。
第1章 相続不動産の売却前にやるべき6つのこと
相続不動産の売却前にやることは以下の通りです。
- 遺言書がないかを確認する
- 相続人を確定する
- 遺産分割協議を行う
- 相続登記を行う
- 家の中を整理する
- 売却に必要な書類を用意する
時系列順になっているので順番に確認しましょう。
1-1 遺言書がないかを確認する
相続が発生したら、最初に行うべきなのが遺言書の有無の確認です。遺言書が存在する場合、その内容が法定相続よりも優先されるため、遺産分割の進め方や不動産の扱いが大きく変わります。
例えば、「特定の相続人に不動産を相続させる」といった内容が記載されている場合、原則としてその内容に従って手続きを進めることになり、遺産分割協議が不要となります。そのため、遺言書の確認をせずに相続人同士で話し合いを進めてしまうと、後から遺言書が見つかった際に手続きのやり直しが必要になる可能性があります。
遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があり、自筆証書遺言の場合は家庭裁判所での検認が必要です。一方で、公正証書遺言は検認不要で手続きを進めることができます。また、法務局で保管されている自筆証書遺言であれば、検認が不要となるケースもあります。
遺言書の保管場所としては、自宅の金庫や貸金庫、法務局などが考えられるため、まずはこれらを確認しましょう。あわせて、日本公証人連合会の公証役場で作成された公正証書遺言の有無についても確認しておくと安心です。
1-2 相続人を確定する
遺言書の有無を確認したら、次に行うべきなのが相続人の確定です。相続人が誰であるかを正確に把握しなければ、その後の遺産分割協議や不動産の売却手続きを適切に進めることができません。
相続人の確定は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集することで行います。これにより、法定相続人が誰であるかを漏れなく確認することができます。戸籍の収集は手間がかかる作業ですが、ここを曖昧にしたまま進めてしまうと、後からトラブルに発展する可能性があります。
例えば、前婚の子どもや認知された子どもなど、把握していなかった相続人が後から判明した場合、それまでに行った遺産分割協議は無効となり、やり直しが必要になります。相続不動産の売却では相続人全員の関与が前提となるため、1人でも漏れていると手続きが進まなくなります。スムーズに売却を進めるためにも、最初の段階で相続人を正確に確定しておくことが重要です。
1-3 遺産分割協議を行う
相続人が確定したら、遺産分割協議を行い、不動産をどのように扱うかを決定します。この段階では、単に「誰が取得するか」を決めるだけでなく、「売却するのか、それとも保有するのか」といった方針もあわせて話し合っておくことが重要です。
相続不動産を売却する場合、売却代金を相続人で分ける換価分割とするのか、特定の相続人が不動産を取得して売却するのかによって、その後の手続きの進め方が大きく変わります。
この時に注意したいのが、共有名義のままにするかどうかです。共有名義にすると、不動産を売却する際に相続人全員の同意が必要となるため、手続きが煩雑になりやすく、トラブルの原因になることがあります。そのため、売却を前提としている場合は、単独名義にしておく方がスムーズに進められるケースが多いでしょう。
なお、遺産分割協議で決定した内容は遺産分割協議書として書面に残しておく必要があります。遺産分割協議書は相続登記や売却手続きの際に必要となるため、相続人全員の署名・押印を行い、内容に不備がないよう注意しましょう。
1-4 相続登記を行う
遺産分割協議がまとまったら、相続登記(名義変更)を行います。相続登記とは、不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する手続きのことです。不動産の売却では、登記簿上の名義人が売主である必要があるため、名義が被相続人のままでは売却手続きを進めることができません。
また、相続登記は2024年4月から義務化されており、相続を知った日から3年以内に申請しなければなりません。正当な理由なく期限を過ぎた場合には、10万円以下の過料が科される可能性もある点に注意が必要です。
なお、相続登記は自分で行うことも可能ですが、戸籍収集や書類作成など手間がかかるため、不安がある場合は専門家に依頼することも検討すると良いでしょう。早めに名義変更を済ませておくことで、その後の売却手続きをスムーズに進められます。
1-5 家の中を整理する
相続登記が完了したら、売却に向けて家の中の整理を進めます。室内に家具や家財などの残置物が多く残っていると、内覧時の印象が悪くなり、買主が見つかりにくくなる可能性があります。
特に、相続不動産は長期間空き家になっているケースも多く、生活感が強く残っていたり、物が多く雑然としていたりすることも少なくありません。このような状態では、不動産の本来の価値が伝わりにくく、売却価格にも影響が出る可能性があります。そのため、売却活動を始める前に、不要な家具や荷物を整理し、できるだけすっきりとした状態にしておくことが重要です。
また、残置物の処分には時間や費用がかかるため、余裕をもって進めることが大切です。遠方にある不動産の場合や、自分で対応するのが難しい場合は、不用品回収業者や遺品整理業者に依頼することも検討すると良いでしょう。
1-6 売却に必要な書類を用意する
不動産を売却する際には、各種書類の提出が必要になります。書類が不足していると契約や引き渡しができないため、事前に準備しておくことが重要です。
主な書類としては、登記識別情報(権利証)や登記簿謄本、固定資産税納税通知書、土地測量図などが挙げられます。特に、登記識別情報を紛失している場合は、別途手続きが必要となり時間がかかるため、早めに確認しておくことが大切です。必要書類は不動産会社から案内されることが一般的ですが、あらかじめ把握しておくことで手続きをスムーズに進めやすくなります。
第2章 相続不動産を売却する際の注意点
相続不動産の売却は、通常の不動産売却と比べて手続きが複雑であり、事前の判断を誤ると売却が進まなかったり、トラブルに発展したりする可能性があります。特に、相続人や登記、売却方法に関する判断は後から修正が難しいため、あらかじめ注意点を押さえておくことが重要です。ここでは、相続不動産の売却前に確認しておくべき注意点について解説します。
2-1 相続登記を後回しにしない
相続登記が終わっていなければ、不動産を売却することはできません。なぜなら、不動産の売買では、登記簿上の名義人が売主であることが前提となるためです。名義が被相続人のままでは、法的に所有者であることを証明できず、売却手続きを完了させることができません。
売却活動や買主との交渉、売買契約の締結自体は進められるケースもありますが、最終的な決済・引き渡しの段階では相続登記が完了している必要があります。そのため、登記を後回しにしていると、途中で手続きが止まってしまう可能性があります。
特に問題となるのが、買主が住宅ローンを利用する場合です。金融機関は融資の前提として、売主が正当な所有者であることを厳格に確認します。そのため、相続登記が未了の状態ではローン審査が通らず、契約が進まないケースも少なくありません。
また、売却直前になって相続登記を行おうとすると、戸籍収集や書類準備に時間がかかり、スケジュールの遅延に繋がる可能性もあります。このようなトラブルを防ぐためにも、相続不動産の売却を検討している場合は、できるだけ早い段階で相続登記を済ませておくことが重要です。
2-2 他の相続人の同意を得ずに売却手続きを進めない
相続不動産を売却するためには、原則として相続人全員の同意が必要です。一部の相続人だけで売却手続きを進めることはできず、仮に強引に進めた場合はトラブルに発展する可能性があります。
特に、共有名義の状態で売却する場合は、全員の意思が一致していなければ契約が成立しません。事前の話し合いが不十分なまま進めてしまうと、途中で反対されて手続きが止まるケースもあります。スムーズに売却を進めるためには、遺産分割協議の段階で売却方針や分配方法について十分に話し合い、全員の合意を得ておくことが大切です。
2-3 1社だけに相談しない
不動産の売却では、1社だけに相談してすぐに売却を決めてしまうのは避けるべきです。不動産会社によって査定価格や販売戦略が異なるため、1社のみの情報で判断すると、適正な価格で売却できない可能性があります。
また、不動産会社によっては、最初に高めの査定価格を提示して契約を取り、その後に「なかなか売れない」などの理由で価格の引き下げを提案するかもしれません。その結果、売却が長期化したり、最終的に相場よりも低い価格で売却してしまう可能性があります。
このようなリスクを避けるためにも、複数の不動産会社に査定を依頼し、提示された価格や販売方針を比較することが重要です。相場観を把握したうえで判断することで、納得感のある売却に繋がります。
第3章 相続不動産の売却前に確認しておくべき税金と費用
相続不動産を売却する際は、税金や諸費用についても事前に把握しておくことが重要です。これらを理解しないまま進めてしまうと、「思っていたより手元に残る金額が少ない」といった事態になりかねません。ここでは、相続不動産の売却前に確認しておきたい主な税金と費用について解説します。
3-1 譲渡所得税
不動産を売却して利益が出た場合には、譲渡所得税が課されます。譲渡所得は「売却価格-取得費-譲渡費用」で計算され、この利益に対して税金がかかる仕組みです。税率は不動産の所有期間によって異なり、以下のように区分されます。
- 所有期間5年以下(短期譲渡所得):39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税)
- 所有期間5年超(長期譲渡所得):20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税)
相続不動産の場合は、被相続人の所有期間を引き継ぐため、「相続してからの期間」ではなく「被相続人が取得してからの期間」で判断される点に注意が必要です。
例えば、被相続人が長期間保有していた不動産であれば、相続後すぐに売却した場合でも長期譲渡所得として扱われ、税率が低くなります。譲渡所得税は売却後にまとまった金額を納税する必要があるため、事前におおよその税額を把握しておくことが重要です。
3-2 利用できる特例(空き家特例・取得費加算の特例)
相続不動産の売却では、一定の要件を満たすことで税負担を軽減できる特例があります。譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「空き家特例」と、相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得を減らせる「取得費加算の特例」です。
空き家特例は、被相続人が住んでいた住宅を相続して売却する場合に適用できるもので、譲渡所得そのものを大きく圧縮できる点が特徴です。一方、取得費加算の特例は、相続税を支払っている場合に、その一部を取得費に上乗せすることで課税対象となる利益を減らせます。
いずれの特例も適用できれば税額を大きく抑えられる可能性がありますが、期限が設けられている点に注意が必要です。空き家特例は相続開始から3年を経過する年の年末まで、取得費加算の特例は相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却する必要があります。
3-3 売却にかかる主な費用
不動産の売却では、税金以外にも様々な費用が発生します。代表的なのが不動産会社に支払う仲介手数料で、「売却価格×3%+6万円+消費税」が上限となります。例えば、3,000万円で売却した場合、約100万円程度が目安です。
また、相続登記を専門家に依頼する場合の報酬や登記費用、印紙代、残置物の処分費用などが発生します。売却にかかる費用は物件によって異なるため、不動産会社に相談するなどして売却前に概算を把握しておくのが望ましいでしょう。
まとめ
相続不動産の売却をスムーズに進めるためには、事前準備を正しい順番で行うことが重要です。遺言書の確認や相続人の確定、遺産分割協議、相続登記といった基本的な手続きを一つずつ確実に進めることで、売却時のトラブルを防ぐことができます。
相続不動産の売却は、相続・登記・税金などが複雑に関係するため、判断を誤ると手続きが進まなくなったり、損をしてしまったりする可能性があります。不安がある場合や手続きをスムーズに進めたい場合は、早めに専門家へ相談することも検討しましょう。
住まいの賢者では、司法書士法人と連携する不動産会社として、売却前の順番から売却完了までワンストップでサポートしています。相続不動産の売却でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
相続不動産の売却に関してよくある質問
ここでは、相続不動産の売却に関してよくある質問に回答します。
売却予定の場合は単独名義にするべきですか?
売却を予定している場合は、単独名義にしておくことが望ましいでしょう。共有名義のままだと、不動産を売却する際に相続人全員の同意が必要となり、手続きが煩雑になるだけでなく、意見の不一致によって売却が進まなくなる可能性があります。一方で、単独名義であれば、売却の意思決定や手続きをスムーズに進められます。
遺産分割協議後に遺言書が見つかったらどうなりますか?
遺産分割協議の後に遺言書が見つかった場合、原則として遺言書の内容が優先されます。そのため、すでに行った遺産分割協議の内容と遺言書の内容が異なる場合は、協議のやり直しや手続きの修正が必要になる可能性があります。
また、すでに売却が進んでいる場合には、トラブルに発展するかもしれません。このような事態を防ぐためにも、遺産分割協議を行う前に、遺言書の有無をしっかり確認しておくことが重要です。




