目次
はじめに
親や親族から不動産を相続したものの、「住む予定がないから売却したい」と考える方は珍しくありません。
不動産会社に査定を依頼すれば売却活動は進めることができますが、利益が出れば確定申告が必要になり、使える特例を知らないまま進めると、税金を多く払ってしまうこともあります。あとから慌てないためにも、売却を進める前に一度税理士へ相談しておくと安心です。
本記事では、相続不動産の売却で税理士に相談するべきケースと費用相場を解説します。
第1章 相続した不動産の売却に税理士は必要?
相続した不動産を売却する際、必ず税理士へ依頼しなければならないわけではありません。
売却益が出ないケースや、取得費や売却費用の資料がそろっているケースでは、自分で確定申告まで対応できる場合もあります。ただし、相続不動産は通常の不動産売却よりも判断が複雑になりがちです。
売却前に税額の見通しを立て、手残りを把握するためにも、まずは税理士に相談することが安全といえるでしょう。
1-1 税理士が必要になりやすいケース
まずは、税理士が必要になりやすいケースを見ていきましょう。
- 売却益が大きい
- 相続税申告と売却時期が近い
- 取得費が不明
- 共有名義になっている
- 相続人同士の調整が必要
相続税を納めている方は、取得費加算の特例を使える可能性があります。ただし、この際に計算を誤ったり、概算取得費で計算してしまったりすると、あまり節税効果が得られなかったり、かえって税負担が重くなることもありえます。信頼できる税理士に相談すれば、代替資料で取得費を立証するなど、適切なアドバイスを受けられる可能性があります。
1-2 自分で対応しやすいケース
次に、自分で対応しやすいケースを見ていきましょう。
- 売却益がほとんど出ない
- 購入時・売却時の資料が整理されている
売却価格が取得費や譲渡費用を下回り、課税される利益が出ない場合は、税理士へ依頼する必要性は下がるでしょう。ただし、利益が出ないと思っていても、建物の取得費は減価償却を考慮するため、実際には課税対象になることがあります。
自分で申告する場合でも、税務署の案内や確定申告書等作成コーナーを使い、疑問点だけ相談して確認する方法がよいでしょう。
第2章 相続不動産の売却を税理士に依頼するメリット
不動産売却は、売却代金がそのまま手元に残るわけではありません。仲介手数料や登記費用などの支出に加え、利益が出れば譲渡所得税や住民税も発生します。
税理士に相談すれば、売る前に「いくらで売ればどの程度税金がかかるか」を試算でき、売却価格の判断もしやすくなるでしょう。
では、相続不動産の売却を税理士に依頼するメリットを解説します。
2-1 税金の計算ミスを防げる
相続不動産の売却で起こりやすいミスは、取得費や所有期間の判断です。
譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算しますが、相続した不動産では被相続人が取得した金額や時期を引き継ぐことが基本です。ここを誤って、相続した日の評価額を取得費のように扱うと、税額が大きくずれるおそれがあります。
税理士に依頼することで、過不足のない計算に近づけてくれるでしょう。
2-2 使える特例の見落としを防げる
相続不動産の売却では、条件を満たすと税負担を軽くできる制度があります。
代表的なケースは、被相続人が住んでいた空き家を売った場合の3,000万円控除や、相続税を納めた人が一定期間内に売却した場合の取得費加算の特例です。
ただし、制度を適用するためには条件があります。税理士に相談すれば、適用できる可能性のある特例を早めに洗い出せるため、売却時の判断に生かすことができるでしょう。
2-3 確定申告までまとめて任せられる
相続不動産を売却して利益が出た場合、原則として売却した翌年に確定申告が必要です。
確定申告は、譲渡所得の内訳書や売買契約書の写し、取得費・譲渡費用を証明する資料などを用意しなければなりません。仕事や家事の合間に資料を集め、慣れない申告書を作成するのは想像以上に負担が大きいものです。
税理士へ依頼すれば、必要書類の案内から申告書作成、提出まで一連の流れを任せられるため、手続き上の負担を軽減できるでしょう。
2-4 他の専門家との役割分担がしやすい
相続不動産の売却は、税理士だけで完結する手続きではありません。
税理士が関わることで、どの手続きを誰に相談すべきか整理しやすくなります。例えば、売却前に相続登記が終わっていなければ司法書士へ、境界が不明確なら土地家屋調査士へつなぐ判断がしやすいでしょう。
専門家ごとに役割分担をして進めることは、手続きの遅れを防ぐうえでも重要です。
第3章 相続不動産の売却を税理士に依頼した場合の費用
相続不動産の売却に関する税理士費用は、依頼する業務範囲によって変わります。
売却後の譲渡所得の確定申告だけなら、一般的には3万円から20万円前後がひとつの目安です。ただし、売却益が大きい場合や特例を使うといった事情があると、報酬は高くなる傾向があるでしょう。
また、税理士報酬は事務所ごとに料金体系が異なります。相談料や申告書作成料、特例判定の費用が別になっていることもあるため、契約前に見積書で業務範囲を確認しましょう。
3-1 追加費用がかかるケース
通常の確定申告だけでは済まない場合、追加費用がかかりやすい傾向があります。
例えば、空き家の3,000万円控除や取得費加算の特例を使う場合は、要件確認や添付書類の作成が増えるため、別料金になることがあります。また、取得費が不明で古い資料を探す必要がある場合も作業量が増えやすいでしょう。
見積りでは、面談回数や税務署対応の範囲まで確認しておくと安心です。
3-2 費用を少しでも安く抑えるコツ
税理士費用を抑えたい場合は、最初に資料を整理しておくことが効果的です。
被相続人が購入したときの売買契約書や売却時の契約書、仲介手数料や測量費の領収書などをまとめて渡せると、税理士の作業時間を減らせます。また、相談前に「確定申告だけ依頼したいのか」「売却前の税額試算も依頼するのか」など依頼する範囲を明確にしておくと、不要な業務を省きやすくなります。
加えて、相続不動産の経験と実績を確認して選ぶと、結果的に損を防げるでしょう。
第4章 相続した不動産の売却にかかる税金
相続した不動産を売却するときは、売却時に必ず発生する税金と利益が出た場合に発生する税金を分けて考えると整理しやすくなります。
売買契約書には印紙税がかかり、売却前に相続登記が必要であれば登録免許税も関係します。一方、譲渡所得税や住民税は、売却しただけで必ずかかるわけではありません。
税金の種類を混同せず、売却前に合計金額を把握することが重要といえるでしょう。
4-1 必ずかかる税金
売却時に発生する税金として、売買契約書に貼る印紙税があります。印紙税は契約金額によって変わり、不動産の譲渡契約書については一定期間、軽減措置が設けられています。
また、相続した不動産を売るには、亡くなった人の名義のままでは売却できないため、相続登記が必要です。相続登記には登録免許税がかかり、司法書士へ依頼する場合は報酬も発生します。なお、売却代金を受け取っただけで消費税がかかるわけではありませんが、仲介手数料などのサービスには消費税が含まれます。
手取り額を把握するには、税金と諸費用をまとめて試算することが大切です。
4-2 利益が出た場合に発生する税金
相続不動産を売却して利益が出ると、以下の税金が発生します。
- 譲渡所得に対する所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引き、特別控除が使える場合は差し引いて計算します。
所有期間が売却した年の1月1日時点で5年を超えると長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得となり、税率が変わります。
相続不動産は、被相続人が取得した時期を引き継いで所有期間を判定することが基本です。したがって、親が何十年も前に購入した実家なら、相続後すぐ売っても長期譲渡所得になるケースもあります。
4-3 利益が出たら確定申告が必要
相続不動産の売却で課税される利益が出た場合は、売却した翌年に確定申告を行います。
会社員で年末調整を受けている方でも、不動産の譲渡所得は給与とは別に申告が必要です。利益が出ていない場合でも、特例を使って税額がゼロになるときは申告が必要になるケースが多いため「利益が出ないから申告不要」と決めつけないほうがよいでしょう。
迷う場合は、申告前に税理士へ相談すると安全です。
第5章 相続後の不動産売却で節税できる制度
相続後の不動産売却では、制度を活用することで税負担を抑えられる可能性があります。
ただし、制度ごとに対象となる税金や適用タイミングが違うため注意が必要です。相続後に「とりあえず売る」と動き出す前に、制度の適用可否を確認しておきましょう。
では、相続後の不動産売却で節税できる制度を紹介します。
5-1 小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、亡くなった人の自宅や事業用の宅地等を相続・遺贈で取得した場合に、一定の要件を満たすと宅地等の評価額を一定割合減額できる制度です。
相続税の負担を抑える効果がありますが、売却時の譲渡所得税を直接減らす制度ではないため注意しましょう。また、特例の適用には、相続人の居住状況や申告期限までの保有状況が関係するため、売却のタイミングによっては不利になる可能性もあります。
相続税申告が必要な方は、売却を急ぐ前に小規模宅地等の特例を使えるか確認しましょう。
5-2 空き家の3,000万円控除
空き家の3,000万円控除とは、被相続人が住んでいた家屋やその敷地等を相続し、一定の要件を満たして売却した場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
ただし、令和6年1月1日以後の譲渡で、対象家屋や敷地等を取得した相続人が3人以上の場合は、控除額の上限が2,000万円となります。
相続した実家を売る方にとっては大きな節税効果が期待できますが、すべての空き家が対象になるわけではないため、売却前に要件を確認することが重要です。
5-3 取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、相続税を納めた方が相続した不動産を一定期間内に売却した場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる制度です。
取得費が増えると譲渡所得が減るため、譲渡所得税や住民税の負担を抑えられる可能性があります。ただし、取得費加算の特例を適用するには以下の要件があります。
- 相続や遺贈で財産を取得している
- その人に相続税が課税されている
- 相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却している
相続税の手続きを依頼した税理士に、続けて相談するとスムーズでしょう。
第6章 相続不動産の売却に強い税理士の選び方
相続不動産の売却を相談する税理士は、慎重に選ぶ必要があります。
税理士にも得意分野があり、多くの事務所は、法人税や個人事業主の顧問業務を中心にしています。相続税や不動産譲渡に強い税理士事務所はあまり多くはないので、注意が必要です。選ぶときは「相続税に詳しいか」だけではなく「売却後の譲渡所得にも対応できるか」を確認しましょう。
費用の安さだけで選ぶと、他の専門家との連携が遅れる可能性があるため注意が必要です。
6-1 相続と不動産売却の両方に強いか確認する
税理士を選ぶ際は、相続税申告の実績だけではなく、不動産売却後の譲渡所得申告に対応しているかを確認しましょう。相続税に強くても、譲渡所得の特例や取得費の立証に不慣れな場合があります。
相談時に、取得費加算の特例や空き家控除の経験を確認をすると判断しやすくなります。また、専門用語を並べるだけではなく、家族にも説明できる言葉で話してくれるかも判断のポイントです。
6-2 報酬の範囲と金額が明確か確認する
税理士費用でトラブルになりやすいポイントは、どこまでが基本料金に含まれるのかが曖昧なまま依頼してしまうことです。
業務範囲は事務所によって違います。見積書には総額だけではなく、追加費用が発生する条件も書いてもらいましょう。特に相続不動産は、取得費が不明だったり共有者が複数いたりすると作業量が増えやすい傾向があります。
料金の説明が丁寧で、依頼前に不明点を解消してくれる税理士を選ぶと安心です。
6-3 他の専門家と連携しやすいか確認する
相続不動産の売却では、税理士の他にも複数の専門家が関わることがあります。
例えば、相続登記は司法書士、境界の確認は土地家屋調査士、相続人同士の対立は弁護士が担当する分野です。税理士が他の専門家と連携しやすい体制を持っていると、手続き全体がスムーズになります。
必要に応じて適切な専門家につなげることで、効率よく売却を進めることができます。
第7章 税理士と合わせて相談したい専門家
相続不動産の売却は、税理士だけに相談すればすべて解決するとは限りません。
どの専門家に何を相談すべきかを理解しておくと、手続きの遠回りを防げます。相続不動産は一つの判断が税金や売却価格に影響しやすいため、早い段階で専門家の役割を整理しておくことが大切です。
ここからは、税理士と合わせて相談したい専門家を紹介します。
7-1 司法書士
司法書士は、不動産登記の専門家です。相続した不動産を売却するには、原則として被相続人名義から相続人名義へ相続登記を済ませる必要があります。
令和6年4月1日から相続登記は義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。
売却直前になって相続登記が未了だと、買主との契約や引き渡しに影響することがあります。税理士が相続税や譲渡所得を担当し、司法書士が権利関係を整理して登記を進めるといった分担を行うことで、売却準備が進めやすくなるでしょう。
7-2 弁護士
弁護士は、相続人同士の対立や法的トラブルがある場合に頼る専門家です。
相続不動産を売却したいと思っても、相続人全員の合意が得られなければ手続きを進めることは難しくなります。特定の相続人が連絡に応じない、遺言の有効性をめぐって争いがあるといった場合は、税理士や不動産会社だけでは解決できません。
弁護士に相談すれば、交渉や調停、必要に応じた法的手続きまで見据えて対応できます。
7-3 土地家屋調査士
土地家屋調査士は、土地の境界や建物の表示登記を扱う専門家です。
相続した土地を売却する際、隣地との境界がはっきりしていないと、買主が不安を感じたり、売却価格に影響したりすることがあります。土地家屋調査士に依頼することで、現地測量や隣地所有者との境界確認を進められます。
成約のしやすさにもつながるため、売却前に土地の状態を確認しておきましょう。
まとめ:相続不動産の売却は税理士への事前相談で損を防ごう!
相続した家や土地を売却するときは、売却価格だけで判断しないことが大切です。
特に、相続税を納めている場合や空き家の3,000万円控除を使える場合、購入時の資料が見つからない場合は、自己判断で進めると損をしてしまう可能性があります。
売却後に慌てて相談するよりも、売却を始める前に税理士や他の専門家を上手に活用し、相続不動産の売却で損をしない準備を進めましょう。
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