目次
はじめに
不動産を活用した相続税対策では、相続税評価額と時価の差を利用した評価減がこれまで広く活用されてきました。特に、貸付用不動産は相続税評価額が下がりやすいことから、節税対策として注目されています。
しかし、2026年度税制改正では、貸付用不動産の相続税評価額に関する「5年ルール」が導入されました。相続開始前5年以内に取得した不動産については、従来のような大幅な評価減が難しくなる見込みです。
「5年を超えて保有すればどうなる?」「全ての不動産が対象?」「最近建てた賃貸物件はどう扱われる?」など、気になる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、不動産の相続税評価額の基本から、貸付用不動産の5年ルールの内容、相続税対策を行う際の注意点などについて解説します。
第1章 不動産の相続税評価額の基本
不動産を活用した相続税対策では、相続税評価額が重要なポイントになります。しかし、「時価とは何が違うの?」「どうやって計算されるの?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
特に、貸付用不動産の5年ルールを理解するためには、まず不動産の相続税評価額の仕組みを把握しておくことが大切です。ここでは、不動産の相続税評価額の基本や時価との違い、土地・建物ごとの評価方法について解説します。
1-1 相続税評価額とは何か
相続税評価額とは、相続税を計算する際に基準となる不動産の価額のことです。実際に売買される価格ではなく、国税庁が定めるルールに基づいて算出されます。
現金や預貯金は、金額がそのまま評価額になります。一方で、不動産は立地や利用状況によって価値が異なるため、一定の基準に沿って評価が行われます。
また、不動産の相続税評価額は、実際の売却価格(時価)よりも低くなるケースが一般的です。そのため、相続税対策として不動産が活用されています。
1-2 時価との違い
不動産の時価とは、市場で実際に売買される価格のことです。一方、相続税評価額は、相続税を計算するために用いられる税務上の評価額を指します。例えば、市場では1億円で売却できる不動産でも、相続税評価額は7,000万円〜8,000万円程度になることがあります。
これは、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基準として計算されるためです。路線価は一般的に公示地価の約8割程度を目安として設定されており、建物も再建築価格などを基準に評価されるため、時価より低くなりやすい傾向があります。
1-3 土地と建物で評価方法が異なる
不動産の相続税評価額は、土地と建物で評価方法が異なります。
土地は、主に路線価方式または倍率方式によって評価されます。路線価とは、道路に面した土地1㎡あたりの評価額のことで、国税庁が毎年公表しています。都市部では路線価方式、それ以外の地域では倍率方式が用いられるのが一般的です。
一方、建物は固定資産税評価額をもとに評価されます。固定資産税評価額は、市区町村から送付される固定資産税納税通知書などで確認できます。
また、土地・建物ともに、利用状況によって相続税評価額が変わる点も特徴です。例えば、自宅として利用している土地と、賃貸アパートとして貸し出している土地では、適用される評価方法や評価減の考え方が異なります。特に、貸付用不動産は借家権割合や貸家建付地評価などによって相続税評価額が下がります。
第2章 貸付用不動産が節税に使われている理由
貸付用不動産は、現金や自宅用不動産と比べて相続税評価額を抑えやすいことから、これまで相続税対策として広く活用されてきました。特に、不動産は時価よりも低い金額で評価される傾向があるうえ、第三者に貸している場合にはさらに評価減が適用されるケースがあります。そのため、「現金を不動産に変えることで相続税を抑える」という対策が行われることも少なくありません。
2-1 時価よりも相続税評価額が低く設定されているため
不動産は、実際の売買価格(時価)ではなく、相続税評価額を基準として相続税が計算されます。例えば、1億円で購入した不動産でも、相続税評価額は7,000万円〜8,000万円程度になります。
これは、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基準に算出されるためです。つまり、現金をそのまま保有するよりも、不動産として保有していた方が相続税評価額を圧縮しやすいのです。
2-2 貸している不動産は相続税評価額が減額されるため
貸付用不動産は、自分で自由に利用できる不動産よりも利用制限があるため、相続税評価額がさらに低くなります。例えば、賃貸アパートや賃貸マンションの場合、建物は貸家、土地は貸家建付地として評価され、それぞれ一定割合の評価減を受けられます。建物である貸家の相続税評価額は、以下の計算式で求めます。
貸家の評価額=自用の家屋の評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)
自用の家屋の評価額とは、所有者自身が建物を使用する場合の評価額で、一般的には固定資産税評価額を指します。借家権割合は全国一律で30%、賃貸割合は相続開始時点で実際に賃貸されている床面積の割合です。
例えば、固定資産税評価額が2,000万円、借家権割合が30%、賃貸割合が100%の場合、貸家の評価額は以下のように計算します。
2,000万円×(1−0.30×1.00)=1,400万円
このケースでは、建物部分の相続税評価額は2,000万円から600万円下がり、1,400万円となります。また、土地である貸家建付地の相続税評価額を求める計算式は以下の通りです。
貸家建付地の評価額=自用地の評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
自用地の評価額とは、他人の権利が付いていない状態の土地の評価額です。借地権割合は地域ごとに異なり、国税庁の路線価図などで確認できます。
例えば、自用地としての土地評価額が6,000万円、借地権割合が60%、借家権割合が30%、賃貸割合が100%の場合、貸家建付地の評価額は以下のようになります。
6,000万円×(1−0.60×0.30×1.00)=4,920万円
このケースでは、土地部分の相続税評価額が6,000万円から1,080万円下がり、4,920万円となります。そのため、建物と土地を合算した貸付用不動産の相続税評価額は、以下の通りです。
建物1,400万円+土地4,920万円=6,320万円
このように、貸付用不動産は建物・土地の両方で評価減を受けられるため、現金をそのまま保有するよりも相続税評価額を大きく下げられるケースがあります。
第3章 貸付用不動産の相続税評価額に影響を与える5年ルール
2026年度税制改正では、貸付用不動産の相続税評価額について新たな見直しが行われました。これまで貸付用不動産は、時価よりも低い相続税評価額で評価されるうえ、貸家や貸家建付地としての評価減も受けられることから、相続税対策として活用されてきました。
しかし、相続開始の直前に貸付用不動産を取得し、大きく評価額を下げるような節税対策については、今後制限されることになります。ここでは、貸付用不動産の相続税評価額に影響を与える5年ルールについて解説します。
3-1 相続開始前5年以内の取得は評価方法が変わる
2026年度税制改正により、相続開始前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産については、従来とは異なる評価方法が用いられることになります。従来は、取得時期にかかわらず、土地は路線価方式や倍率方式、建物は固定資産税評価額をもとに評価されるのが原則でした。
しかし、改正後は、被相続人などが相続開始前5年以内に有償で取得または新築した一定の貸付用不動産について、原則として通常の取引価額に相当する金額で評価されます。つまり、相続直前に賃貸アパートや賃貸マンションなどを購入しても、従来のように相続税評価額を大きく下げることは難しくなります。
この改正は、2027年1月1日以後に相続などで取得する財産の評価から適用される見込みです。
3-2 原則は時価ベース(取得価額の約80%)で評価される
5年ルールの対象となる貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額、いわゆる実勢価格を基準とした評価に切り替わる見込みです。
具体的には、取得価額に取得時から課税時期までの地価変動等を考慮した金額の80%で評価されます。単純に購入価格の80%で評価されるわけではなく、取得後の地価の上昇・下落なども踏まえて評価額を計算する点に注意が必要です。
例えば、相続開始前5年以内に賃貸アパートや賃貸マンションを購入した場合、従来のように路線価や固定資産税評価額を基準として大きく評価額を下げることは難しくなります。
3-3 対象となるのは貸付用不動産
5年ルールの対象となるのは、一定の貸付用不動産です。貸付用不動産とは、賃貸アパートや賃貸マンション、貸家、賃貸用の店舗・事務所など、第三者に貸し付ける目的で利用されている不動産を指します。
一方、自宅として利用している不動産や、貸付用ではない土地・建物については、原則としてこの5年ルールの対象にはなりません。
3-4 5年以内と5年超での評価の違い
貸付用不動産の5年ルールでは、相続開始前5年以内に取得・新築したかどうかによって、評価方法が変わります。
相続開始前5年以内に取得・新築した貸付用不動産は、取得価額に地価変動等を考慮した金額の80%で評価される見込みです。一方、5年を超えて保有している貸付用不動産は、従来どおり、土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額をもとに評価される見込みです。
例えば、相続開始前5年以内に1億円で取得した貸付用不動産がある場合、評価額のイメージは以下の通りです。
| 評価方法 | 評価額の考え方 | 評価のイメージ |
|---|---|---|
| 従来の評価方法 | 路線価・固定資産税評価額をもとに、貸家・貸家建付地の評価減を反映 | 5,000万円程度 |
| 5年ルール適用後 | 取得価額に地価変動等を考慮した金額の80% | 8,000万円程度 |
※上記はあくまでイメージです。実際の評価額は、土地・建物の割合、地価の変動、賃貸割合、借地権割合、借家権割合などによって異なります。
このように、5年ルールの対象になると、従来の評価方法よりも相続税評価額が高くなりやすく、短期間で大きな節税効果を得ることは難しくなります。
3-5 対象となるケース
5年ルールの対象となるのは、相続開始前5年以内に、被相続人などが有償で取得または新築した貸付用不動産です。例えば、以下のようなケースが該当します。
- 相続開始前5年以内に賃貸マンションを購入した
- 相続開始前5年以内に貸付用の建物を新築した
また、土地と建物で取得時期が異なる場合は、それぞれ分けて考える必要があります。
例えば、土地は5年以上前から所有しているものの、相続開始前5年以内に貸付用の建物を新築した場合、建物部分については5年ルールの対象となります。一方で、自宅や未利用地など、貸付用ではない不動産は原則として対象外です。
第4章 貸付用不動産による相続税対策の注意点
貸付用不動産は、相続税評価額を下げられる可能性がある一方で、所有後の管理や賃貸経営の負担も発生します。特に、2026年度税制改正によって相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産の評価方法が見直されるため、短期的な節税目的だけで取得すると、想定した効果を得られない可能性があります。
ここでは、貸付用不動産による相続税対策を検討する際の注意点について見ていきましょう。
4-1 相続人の管理負担が節税効果を上回るリスクがある
貸付用不動産を相続すると、相続人が賃貸経営や物件管理を引き継ぐことになります。賃貸物件を所有していると、入居者対応や修繕、家賃管理、管理会社とのやり取りなどが発生します。築年数が古い物件であれば、設備交換や大規模修繕が必要になることもあるでしょう。
相続税評価額を下げられたとしても、管理の手間や維持費が大きい場合、相続人にとって負担の大きい資産になる可能性があります。
また、相続人が複数いる場合、不動産を共有で相続すると、売却や修繕、賃貸条件の変更などに全員の同意が必要になるケースがあります。意見がまとまらず、トラブルに発展することも少なくありません。
そのため、貸付用不動産による相続税対策は、節税効果だけでなく、相続後に誰が管理するのか、維持費をどう負担するのかまで考えておくことが大切です。
4-2 空室状況によっては想定通りの効果が出ない
貸付用不動産は、入居者に貸していることによる利用制限を前提に、相続税評価額が減額されます。そのため、空室が多い物件や、実際には貸付の実態が乏しい物件では、想定していたほど評価額が下がりません。
例えば、賃貸アパートを所有していても、相続開始時点で空室が多い場合、貸家や貸家建付地としての評価減が限定的になります。また、相続直前に形式的に賃貸を始めただけのようなケースでは、税務上問題視される可能性もあります。
加えて、空室が続けば家賃収入が減少し、固定資産税や修繕費、管理費などの支出が重くなります。結果として、節税効果よりも保有コストの負担が大きくなることもあるでしょう。
まとめ
貸付用不動産は、時価よりも相続税評価額が低くなりやすく、さらに貸家や貸家建付地として評価減を受けられることから、相続税対策として活用されてきました。
しかし、2026年度税制改正により、相続開始前5年以内に取得・新築した貸付用不動産については、評価方法が見直される見込みです。対象となる場合、取得価額に地価変動等を考慮した金額の80%で評価されるため、従来のような大きな節税効果は期待しにくくなります。
一方で、5年を超えて保有している貸付用不動産については、従来の評価方法による評価減を受けられる余地があります。ただし、空室状況や賃貸割合、管理負担などによって、実際の節税効果は変わります。
貸付用不動産による相続税対策は、税金だけでなく、相続後の管理や収益性まで含めて判断することが大切です。5年ルールの対象になるか判断が難しい場合や、不動産を活用した相続対策を検討している場合は、早めに専門家へ相談しましょう。
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貸付用不動産の相続税評価額に影響を与える5年ルールによくある質問
ここでは、貸付用不動産の相続税評価額に影響を与える5年ルールによくある質問に回答します。
全ての不動産に5年ルールは適用されますか?
全ての不動産に5年ルールが適用されるわけではありません。5年ルールの対象となるのは、相続開始前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産です。
貸付用不動産とは、賃貸アパートや賃貸マンション、貸家、賃貸用の店舗・事務所など、第三者に貸し付ける目的で利用されている不動産を指します。一方、自宅として利用している不動産や、貸付用ではない土地・建物は、原則として5年ルールの対象外です。
土地は5年以上保有していますが、貸付用の建物を最近建てた場合はどうなりますか?
土地と建物は、それぞれ取得時期を分けて判断されます。例えば、土地は5年以上前から所有していても、相続開始前5年以内に貸付用の建物を新築した場合、建物部分については5年ルールの対象となります。
この場合、土地は従来の評価方法で評価される一方、建物については取得価額に地価変動等を考慮した金額の80%で評価されます。つまり、「土地を5年以上持っているから不動産全体が対象外になる」とは限りません。
