目次
はじめに
相続した不動産を売却する場合、「何年以内に売れば良いのか」「3年以内に売ると税金が安くなるのか」と気になる方も多いでしょう。
結論から言うと、相続不動産には法律上「何年以内に売らなければならない」という売却期限はありません。しかし、利用予定がない不動産であれば、相続から3年以内を目安に売却を検討するのがおすすめです。
本記事では、相続不動産を3年以内に売るべきといわれる理由や、売却時にかかる税金、税額のシミュレーションについて分かりやすく解説します。
第1章 相続不動産に「何年以内に売るべき」という決まりはない
相続不動産は、必ずしも相続後すぐに売却しなければならないわけではありません。まずは、売却期限と相続登記の期限を分けて理解しておきましょう。
1-1 売却期限は設けられていない
相続した不動産について、法律上「相続から何年以内に売却しなければならない」という決まりはありません。そのため、実家に住み続ける、賃貸に出す、将来的に売却するなど、相続人の事情に応じて方針を決められます。
ただし、売却期限がないからといって、放置して良いわけではありません。誰も住まない不動産であっても、所有している限り固定資産税や管理費、修繕費などは発生します。空き家のまま放置すれば、建物の劣化や近隣トラブルに繋がります。
特に利用予定がない不動産は、売却時期を先延ばしにするほど費用や管理の負担が増えるため、早めに方針を決めることが重要です。
1-2 相続登記は3年以内に
売却期限はありませんが、相続登記には期限があります。2024年4月から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければなりません。正当な理由なく期限を過ぎた場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
また、相続不動産を売却するには、原則として亡くなった方の名義から相続人名義へ変更しておく必要があります。登記名義が被相続人のままでは、買主への所有権移転登記ができないためです。
つまり、相続不動産を売る予定がある場合は、売却期限の有無にかかわらず、まず相続登記を進める必要があります。売却を検討しているなら、相続登記の期限である3年を一つの目安として、手続きと売却準備を並行して進めましょう。
第2章 相続不動産は3年以内に売るべきといわれる理由
相続不動産に売却期限はないものの、実務上は「3年以内に売った方が良い」といわれることがあります。これは、主に税制上の特例や管理負担が関係しています。
2-1 取得費加算の特例を使える可能性がある
相続税を支払った人が、相続した不動産を一定期間内に売却する場合、取得費加算の特例を使える可能性があります。
取得費加算の特例とは、相続税額のうち一定額を、不動産の取得費に加算できる制度です。譲渡所得税は「売却価格から取得費や譲渡費用などを差し引いた利益」に対してかかるため、取得費を増やせれば課税対象となる譲渡所得を抑えられます。取得費加算の特例を使うには、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 相続や遺贈によって財産を取得している
- その財産を取得した人に相続税が課税されている
- 相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却している
相続税の申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。そのため、取得費加算の特例は、一般的に相続開始から3年10ヶ月以内が一つの期限になります。
ただし、特例の適用を検討しているなら、早めに売却に向けて行動するのが大切です。相続登記や遺産分割協議、査定、売却活動には時間がかかるため、期限ぎりぎりに動き出すと間に合わない可能性があります。
2-2 空き家の3,000万円特別控除を使える可能性がある
相続した実家が空き家になっている場合、一定の要件を満たせば「被相続人の居住用財産に係る3,000万円特別控除」を使えます。空き家の3,000万円特別控除は、相続した空き家やその敷地を売却した際に、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例です。
譲渡所得を大きく減らせるため、適用できれば税負担を大幅に抑えられます。主な要件は以下の通りです。
- 被相続人が相続開始直前まで一人で住んでいた家屋である
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋である
- マンションなどの区分所有建物ではない
- 相続から売却まで事業用、貸付用、居住用に使っていない
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却している
- 売却代金が1億円以下である
- 一定の耐震基準を満たす、または取り壊して売却するなどの要件を満たす
なお、令和6年1月1日以後の譲渡では、相続人が3人以上いる場合の控除額は最高2,000万円となります。空き家特例は要件が細かいため、使えるかどうかは事前に確認が必要です。
2-3 固定資産税や管理費の負担を長引かせずに済む
相続不動産を所有し続ける限り、固定資産税や都市計画税、管理費、修繕費などの負担が発生します。マンションであれば管理費や修繕積立金、戸建てであれば庭木の手入れや建物の修繕費がかかることもあります。
特に空き家の場合、住んでいないにもかかわらず費用だけが発生し続ける状態になりやすいでしょう。定期的な換気や清掃、防犯対策も必要になり、遠方に住んでいる相続人にとっては大きな負担になります。
また、管理が不十分なまま建物が劣化すると、雨漏りや倒壊、害虫・害獣被害、近隣への損害などに繋がる恐れがあります。将来的に売却するつもりであれば、建物の状態が悪くなる前に売却した方が、買主が見つかりやすくなるケースもあります。
2-4 相続登記や遺産分割に時間がかかるため早めに動く必要がある
相続不動産は、売ろうと思ってすぐに売却できるとは限りません。売却前には、相続人の確認、遺産分割協議、相続登記、査定、媒介契約、売却活動、売買契約などの手続きが必要です。
相続人が複数いる場合は、不動産を誰が取得するのか、売却代金をどのように分けるのかを話し合う必要があります。話し合いがまとまらなければ、売却までに数ヶ月以上かかることもあるでしょう。
そのため、税制上の特例を使いたい場合は、期限から逆算して早めに動くことが大切です。相続してから3年以内に売りたいと考えていても、手続きが長引けば期限に間に合わない可能性があります。
第3章 相続不動産を売却する際にかかる税金
相続不動産を売却する際には、譲渡所得税や印紙税、登録免許税などがかかる場合があります。ここでは、主な税金について整理していきましょう。
3-1 売却益に対してかかる譲渡所得税
相続不動産を売却して利益が出た場合、譲渡所得税がかかります。譲渡所得は、次の計算式で求めます。
譲渡所得=売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除
取得費とは、被相続人がその不動産を取得した時の購入代金や購入時の費用などです。相続の場合、原則として被相続人の取得費を引き継ぎます。取得費が分からない場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算します。
譲渡費用には、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、建物を取り壊して土地を売る場合の解体費などが含まれます。譲渡所得税の税率は、所有期間によって異なります。
- 所有期間5年超の税率:所得税15.315%+住民税5%=20.315%
- 所有期間5年以下の税率:所得税30.63%+住民税9%=39.63%
なお、相続不動産の所有期間は、被相続人が取得した日から引き継いで計算します。そのため、相続してから3年以内に売却したとしても、被相続人が長く所有していた不動産であれば、長期譲渡所得になります。
3-2 売買契約書にかかる印紙税
不動産の売買契約書を作成する際には、契約金額に応じて印紙税がかかります。印紙税は、売買契約書に収入印紙を貼り付けて納める税金です。
例えば、不動産の売買契約書に記載された契約金額が1,000万円超5,000万円以下の場合、軽減措置の適用期間中であれば印紙税は1万円です。5,000万円超1億円以下の場合は3万円となります。
売主と買主がそれぞれ契約書を保管する場合、それぞれの契約書に印紙税がかかります。どちらが負担するかは契約内容によって異なりますが、一般的には自分が保管する契約書分を負担します。
3-3 相続登記にかかる登録免許税
相続不動産を売却する前には、原則として相続登記が必要です。相続登記を行う際には、登録免許税がかかります。
相続登記の登録免許税は、原則として以下の計算式で求めます。
登録免許税=固定資産税評価額×0.4%
例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産であれば、登録免許税は8万円です。なお、相続登記を司法書士に依頼する場合は、登録免許税とは別に司法書士報酬が発生します。報酬額は依頼先や不動産の数、相続人の人数などによって異なりますが、個人で戸籍収集や申請書作成を行うのが難しい場合は、専門家に依頼すると手続きを進めやすくなります。
第4章 相続不動産を3年以内に売却した場合の税金シミュレーション
ここでは、相続不動産を3年以内に売却した場合の税金を、簡単な例で確認します。実際の税額は取得費、相続税額、譲渡費用、所有期間、特例の適用可否によって変わるため、あくまで概算としてご覧ください。
4-1 取得費加算の特例を使えるケース
まずは、取得費加算の特例を使えるケースを考えてみましょう。ここでは、相続税のうち400万円を取得費に加算できるものとして計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 4,000万円 |
| 取得費 | 500万円 |
| 譲渡費用 | 150万円 |
| 取得費に加算できる相続税額 | 400万円 |
このケースでは、課税対象となる譲渡所得は2,950万円です。長期譲渡所得の税率20.315%で計算すると、譲渡所得税・住民税は以下の通りです
- 4,000万円-(500万円+400万円)-150万円=2,950万円
- 2,950万円×20.315%=約599万円
取得費加算の特例は、相続税を支払っている人が一定期間内に相続不動産を売却する場合に使える可能性があります。ただし、相続税がかかっていない場合や期限を過ぎている場合は適用できません。
4-2 空き家の3,000万円特別控除を使えるケース
次に、空き家の3,000万円特別控除を使える場合の税額も確認してみましょう。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 4,000万円 |
| 取得費 | 200万円 |
| 譲渡費用 | 150万円 |
| 特別控除 | 3,000万円 |
まず、特別控除を差し引く前の譲渡所得は以下の通りです。
4,000万円-200万円-150万円=3,650万円
空き家の3,000万円特別控除を使える場合、ここから3,000万円を差し引きます。
3,650万円-3,000万円=650万円
このケースでは、課税対象となる譲渡所得は650万円です。長期譲渡所得の税率20.315%で計算すると、譲渡所得税・住民税は以下の通りです。
650万円×20.315%=約132万円
ただし、空き家特例は、被相続人が一人で住んでいた旧耐震の家屋であることや、相続後に貸付・居住・事業に使っていないことなど、細かい要件があります。売却する物件がすべて対象になるわけではありません。
4-3 特例を使えない場合との税額差
最後に、特例を使えない場合と比較してみましょう。取得費加算の特例の例では、特例を使わない場合の譲渡所得は以下の通りです。
4,000万円-500万円-150万円=3,350万円
特例を使う場合の譲渡所得は2,950万円だったため、譲渡所得は400万円少なくなります。長期譲渡所得の税率20.315%で計算すると、税額差は約81万円です。
400万円×20.315%=約81万円
一方、空き家の3,000万円特別控除の例では、特例を使わない場合の譲渡所得は3,650万円です。長期譲渡所得の税率20.315%で計算すると、税額は約741万円になります。
3,650万円×20.315%=約741万円
特例を使う場合の税額は約132万円だったため、この例では税額差が約609万円になります。
このように、相続不動産の売却では、特例を使えるかどうかによって税負担が大きく変わる場合があります。3年以内の売却が重要といわれるのは、こうした特例に期限があるためです。ただし、3年以内に売れば必ず税金が安くなるわけではないため、売却前に適用要件を確認しておきましょう。
まとめ
相続不動産には、法律上「何年以内に売らなければならない」という期限はありません。しかし、相続登記は3年以内に行う必要があり、売却を検討している場合は早めに手続きを進めることが重要です。
また、相続税がかかった場合の取得費加算の特例や、空き家の3,000万円特別控除など、相続不動産の売却時に使える可能性がある特例には期限があります。利用予定がない不動産であれば、3年以内を目安に売却を検討すると、税負担や管理負担を抑えやすくなります。
ただし、3年以内に売れば必ず節税できるわけではなく、特例ごとに細かい要件があります。相続不動産の売却時期で迷ったら、不動産会社や司法書士、税理士などの専門家に相談し、自分のケースに合った進め方を確認しましょう。
住まいの賢者では、司法書士法人と連携する不動産会社として、相続登記や遺産分割、不動産売却に関する相談を承っています。相続した不動産をいつ売るべきか迷っている方は、税制上の期限や管理負担も踏まえて早めにご相談ください。
相続不動産の売却時期に関してよくある質問
ここでは、相続不動産の売却時期に関してよくある質問に回答します。
相続した不動産は何年以内に売るべきですか?
相続した不動産に売却期限はありません。ただし、利用予定がない場合は、3年以内を目安に売却を検討するのがおすすめです。取得費加算の特例や空き家の3,000万円特別控除など、期限のある税制上の特例を使える可能性があるためです。
相続した土地を3年以内に売ると税金は安くなりますか?
必ず安くなるわけではありません。相続税を支払っている場合は取得費加算の特例、空き家を売る場合は3,000万円特別控除を使える可能性があります。ただし、どちらも適用要件があるため、売却前に確認が必要です。
相続した不動産を売るとどのような税金がかかりますか?
主に、売却益に対してかかる譲渡所得税、売買契約書にかかる印紙税、相続登記にかかる登録免許税などがあります。譲渡所得税は、売却価格から取得費や譲渡費用、特別控除を差し引いた利益に対して課税されます。
空き家の3,000万円控除はいつまで使えますか?
空き家の3,000万円特別控除は、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することが主な要件の一つです。また、制度自体は令和9年12月31日までの譲渡が対象とされています。物件の要件も細かいため、早めに確認しましょう。
相続不動産を売らずに持ち続ける選択肢はありますか?
あります。自分で住む、賃貸に出す、将来の活用に備えて保有するなどの選択肢があります。ただし、固定資産税や管理費、修繕費は継続して発生します。空き家の場合は劣化や近隣トラブルのリスクもあるため、費用と活用予定を踏まえて判断しましょう。



